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2007年09月 アーカイブ

2007年09月26日

矯正治療はしたいけど…、時間がかかりますよね?

VOL.1
Q.矯正治療はしたいけど…、時間がかかりますよね?

A.矯正治療はどうしても期間が長いイメージが強いのですが、最新のデーモンシステムを装着すれば、治療期間を1/3から1/4短縮することが可能です。
 この装置は弱い力で歯の移動が可能なため、歯や体により負担をかけることなく歯列の矯正ができ、通院回数も通常1カ月に1度の来院が2カ月に1度で済みます。デーモンシステムは残念ながら、目立たない透明な装置や、歯の裏側に装着する見えない装置ではなく、金属とプラスチックが半々の装置(写真参照)になり若干金属部が目立ちますが、イギリスのタイムズ紙でティファニーブレース(宝石のような矯正装置)として取り上げられた程、美しい装置です。
 矯正治療がより一般的になってきた現在、患者さまが最も気にされるのは数年前までの「目立つ」ではなく、「目立ってもいいから早く終わりたい」というもの。皆さんも短期間で痛みも少ない最先端のデーモンシステムで矯正治療してみませんか。これからの時代、美しい歯並びはグローバルスタンダード(世界基準)です。

■ 症例1(25歳女性/治療1年2カ月)
治療前 治療後

■ 症例2
▲ デーモンシステムを装着した状態

小学校の歯科検診で「歯並び」の指摘を受けました。永久歯列になるまで待っていいの?

VOL.2
Q.小学校の歯科検診で「歯並び」の指摘を受けました。永久歯列になるまで待っていいの?

A.個人差はありますが、乳歯は12歳前後ですべて抜け落ちて永久歯列になります。お子さまが7歳から10歳ぐらいであれば、施せる矯正治療がたくさんあります。それにもかかわらずこの時期に何もしないと、顎のズレや歯並びの問題がさらに重大になります。顎が大きくなり歯が生え替わる時期に、かみ合わせを乱す原因である歯並びの治療や、指しゃぶり等の悪習癖をなくすことでよい成長発育を誘導する医療を、咬合育成といいます。現代のお子さんの顎は小さくなってきており、矯正治療で永久歯を何本か抜歯したという話をよく聞きますが、早い時期の咬合育成で永久歯非抜歯治療の可能性を高められるのです。
 残念ながら、学校歯科検診で初めてわが子の歯並びが悪いことに気付いたという家族が多くいます。家系に一人でも歯並びの悪い方がいる場合は遺伝的影響が考えられますので、少しでも問題を発見したら、日本矯正歯科学会が推奨しているように、矯正歯科専門医院へ早期に受診されることをお勧めします。

■ 咬合育成を行った症例
主訴:反対咬合(受け口)
初診時年齢:6歳11カ月 女児
動的治療期間:約11カ月
治療前 治療後

カラフル矯正ってなんですか?

VOL.3
Q.カラフル矯正ってなんですか?

A.歯列矯正していることを隠したい、という傾向が強かった日本をはじめとするアジア諸国では、治療費が銀色の装置より割高でも、目立たない白い装置や歯の裏側につけて表から全く見えない舌側矯正が人気でした。最近その考え方に少しずつ変化が起き、わざと矯正治療をしていることをアピールするような、カラフル矯正が人気になりつつあります。
 カラフル矯正とは、装置とワイヤーを固定する為の小さな輪ゴムをさまざまな色にし、患者さんに選んでいただいて留めるものです。その日の洋服の色に合わせたり、春は桜のピンク、夏は涼しげなブルー、ハロウィンはオレンジ、クリスマスには赤と緑を交互にしたりと、選ぶ色は好きな色であったり、季節感であったりと人それぞれですが、カラフル矯正にはまると毎回選択する色が派手になっていく傾向があります。
 一昔前のように矯正装置を隠す時代はもう終わりました。矯正治療は決して恥ずかしいものでも、隠すものでもありません。矯正治療をしていることがステータスであり、健康に対しての意識が高い証明になります。カラフル矯正で堂々と明るく楽しい時間を過ごして頂ければ、より矯正治療が有意義なものになるに違いありません。

■ カラフル矯正治療例(動的治療中)

矯正治療では永久歯を抜くって本当?

VOL.4
Q.矯正治療では永久歯を抜くって本当?

A.八重歯の人が矯正治療で美しい歯並びになった写真を見かける機会があると思います。デコボコは魔法のように治っている訳ではなく、多くの場合で何本かの永久歯を抜いて治していることをご存知ですか?
 デコボコの歯並びは、例えるなら、5人掛けのイスに6人が座っている状態です。前後にお尻をずらしながら皆が窮屈でつらそうに座っていますが、誰かが立ち上がればゆったりと長時間座れると思いませんか? 同じように口の中では、土台である顎(あご)の大きさに対し歯の本数が多過ぎるためにデコボコが生じ、むし歯や歯周病のリスクが増えているのです。抜歯して矯正治療をすると歯並びは整い、個々の歯の負担が減り、残った歯の寿命を延ばすことができます。
 このように抜歯治療は必要であって不利益は生じませんが、矯正歯科専門医院では無益な抜歯をしないように、非抜歯治療の可能性を最優先に検討いたしますのでご安心ください。最近では奥歯を動かす特殊な装置や、最新の矯正装置である「デーモンシステム」の使用により、これまで抜歯を余儀なくされてきた症例の非抜歯治療の可能性が格段に向上しています。

■ デーモンシステムによる治療例
初診時 4カ月後

40代でも矯正治療は可能ですか?

VOL.5
Q.40代でも矯正治療は可能ですか?

A.結論から申しますと、加齢と共に修復歯や欠損歯が増えるため、治療が複雑になり、治療期間が長くなる可能性はありますが、歯を支える骨や組織が健康であれば矯正治療は何歳であっても可能です。近年、歯の欠損部に歯根に代わるチタン製のネジを植立し、人工的に歯を再生させるインプラント歯科治療の技術が進歩し、これまでは奥歯を喪失し矯正治療を諦めていた症例や、高年齢での矯正治療が可能になってきています(写真参照)。
 最近、若返りや老化予防を意味するアンチエイジングの一つとして、歯並びに興味を持ち始めている30代、40代の女性が増えているようです。実際に矯正治療で整えられたかみ合わせは、脳の活性化を促し、消化を助け内臓諸器官の負担を軽減させるため、肌のみならず全身の健康につながります。また、自信にあふれた笑顔は、健康で若々しいイメージを相手に与えるものです。「40代で今さら矯正なんて」と思った時点で、最大のアンチエイジングを逃してしまうかもしれません。まだまだ間に合います! まずは矯正歯科専門医院へご相談下さい。

■ インプラント矯正治療例
初診時年齢:50歳7カ月 男性
動的治療期間:1年8カ月
初診時 治療終了時

舌側(ぜっそく)矯正ってなんですか?

VOL.6
Q.舌側(ぜっそく)矯正ってなんですか?

A.舌側矯正とは「リンガル矯正」や「見えない矯正」とも呼ばれる矯正治療法の一つで、歯の裏側に矯正装置をつけるため表側からは全く見えません。職業柄装置が見えてしまうと困るという理由で踏み切れなかった人でも、人に気づかれることなく歯並びを治すことができます。世界的に見ると、装置を隠す傾向にあるアジア諸国で需要は特に高いようです。矯正治療は決して隠す必要のある恥ずかしいことではありませんが、装置の見た目によって健康への道を躊躇(ちゅうちょ)するのであれば、舌側矯正は良い選択であると言えます。舌側は表側と比べて「治療期間が長い」「仕上がりがあまい」「できない症例がある」などの問題が過去にありましたが、最近は表側と変わりなく治療ができるようになりました。また、小さな装置の登場で発音障害や違和感も少なくなり、快適に治療が受けられるようになっています。
舌側矯正はとても魅力的ではありますが、表でも裏でも、透明でも銀色でも、皆様のライフスタイルにあった装置を選んでいただければ良いと思います。

▲ 金属矯正装置

▲ 舌側矯正装置(表からは見えない)

E-ラインってなんですか?

VOL.7
Q.E-ラインってなんですか?

A.人の歯並びや顎(あご)の位置は千差万別で、『美』の基準も人それぞれ違いますが、横顔(口元)の美しさの指標に、鼻と顎の先端を結んだ直線であるE-ライン(エステティックライン)というものがあります。上下の唇がE-ラインの付近にあるのが日本人にとって美しい横顔とされています。前歯の位置と横顔はとても密接な関係にあるために、歯並びによって口元のバランスが悪くなり、人に与える印象を悪くしている場合があります。矯正治療ではこのE-ラインをとても重要視しており、歯並びを改善することにより理想的な美しいE-ラインを手に入れることができるのです。横顔が人に与えるイメージは多大で、『顔の美しさ』を決定づけていると言っても過言ではありません。

あなたはどの横顔が理想ですか?
▲ 理想的なE-ライン ▲ 上の前歯が出ている人 ▲ 受け口の人

矯正治療による口元の変化
▲ 治療前 ▲ 治療後

八重歯がかわいいって言われるけれど、このままで問題ないの?

VOL.8
Q.八重歯がかわいいって言われるけれど、このままで問題ないの?

A.日本では「八重歯がかわいい」と言う声を耳にしますが、実は立派な不正咬合(問題のある歯並び)で、世界的にはあまり好まれないのが現状です。不正咬合は見た目の悪さだけではなく、しっかり咬(か)めていないのが最大の問題です。今回はその代表例を挙げてみます。
1. 叢生(そうせい)→歯が連続的に並んでいない。八重歯やデコボコがある。
2. 上顎前突(出っ歯)→上の前歯が極端に前へ突出している。唇が閉じにくい。
3. 下顎前突(受け口)→下の前歯が上の前歯より前にある。下アゴの突出感がある。
4. 過蓋咬合(かがいこうごう)→咬み合わせたときに下の前歯が見えない。
5. 開咬(かいこう)→奥歯で咬むと上下の前歯が咬み合わない。上下の隙間から舌が見えている。
 歯科矯正治療はこれら不正咬合を改善し、世界に通用する美しくしっかり咬める歯並びを再構築します。

あなたはどの歯並び?
  1. 叢生
2. 上顎前突 3. 下顎前突
4. 過蓋咬合 5. 開咬

矯正治療による変化
治療前 治療後

ブライダル矯正って?

VOL.9
Q.ブライダル矯正って?

A.ブライダル矯正とは、“一生に一度のセレモニーに、最高の笑顔で臨みたい”という方に、結婚式当日に目標を定めて提供される矯正治療です。
 ご存知の通り、歯列矯正は歯並びの状態にもよりますが、2年ぐらいかかるのが普通です。結婚式まであまり期間がない場合、歯並びを治したいけれど矯正治療はあきらめるという話はよく聞きます。ブライダル矯正では美しい笑顔を早期に得るために、人の目に触れる前歯を優先的に整えます。表側からの目立つ矯正装置は、すべての治療が完了していなくても式直前に除去いたしますので、当日は何も着いていない状態で、気持ち良く式に臨んでいただけます。大切な行事が一段落したら再度装置を装着し、治療の継続をいたします。
 もちろん、舌側矯正(表から見えない歯の裏側からの矯正)であれば、装置を除去せずに、誰にも気付かれることなく治療を継続することができます。結婚式までに6カ月から10カ月の期間的猶予がある方は、ぜひとも矯正治療をお勧めします。ブライダル矯正については、お近くの矯正専門医にご相談ください。

■ ブライダル矯正例 (デーモンシステムによる治療)
初診時 2カ月後

最新の矯正装置「デーモンシステム」とは?

VOL.10
Q.最新の矯正装置「デーモンシステム」とは?

A.近ごろ矯正治療を考えている人の間で話題になっているのが、「デーモンシステム」です。これは現在世界各国で急激にシェアを伸ばしている最先端の矯正装置で、今までの装置と比較して、治療が早く終わる(最大50%短縮)、非常に弱い力で歯を動かすため生体に優しく痛みが少ない、という利点があります。また、通院間隔は通常1カ月に一度ですが、デーモンシステムは2カ月に一度で済みますので、多忙な現代人のライフスタイルに合った装置と言えます。「デーモンシステム」は歯の表側に付ける銀色の装置ですが、最近は「目立ってもいいから早く終わりたい」と言うのが患者さまの一番の声で、恥ずかしい、隠したいという時代は過去のものになりつつあります。それだけ矯正治療が日常に溶け込んでいる証拠です。
 もっと食べ物がよく噛めるのに、もっと美しくなれるのに、矯正治療は時間がかかるからとあきらめるのはもったいないことです。笑顔に自信が持てればきっと人生は大きく変わります。歯並びを早く快適に治すことができる最先端の「デーモンシステム」を、矯正専門医のもとで体験してみませんか!

■ 矯正治療例
主訴:叢生(デコボコ)
初 診 時 年 齢:28歳8カ月 女性
動的治療期間:1年8カ月
治療前 治療終了時

子どもの「受け口」は何歳から治療が必要ですか?

VOL.11
Q.子どもの「受け口」は何歳から治療が必要ですか?

A.「受け口」とは「反対咬合」とも言われ、下の前歯が上の前歯よりも前にあり、下アゴの突出感を伴うことがあります。
 家系に受け口の人がいる場合は遺伝的影響が考えられ、長期的観察が必要になりますが、舌の動かし方や下アゴを前に出すなどの悪い癖が原因であれば、矯正治療による劇的な改善が望めます。
 学校検診で「受け口」を指摘され、かかりつけの歯科医院で相談したら「永久歯列まで待ちましょう」と言われたという話はよく聞きます。乳歯の受け口であれば永久歯に生え変わる時に自然に改善することもありますが、本当に待っていいのでしょうか? 受け口は上下のアゴの正しい成長発育を著しく阻害するため、5歳でも6歳でも確認された時点で早期に治療する必要があります。また、個人差もありますが、受け口の治療で重要な、上アゴの成長期である10歳までに改善しないと治療が難しくなります。
 子どもは一人では矯正歯科専門医院を訪れることはできません。歯並びを良くするも悪くするも間違いなく親の責任です。少しでも不安な点があれば、早期に矯正歯科専門医に相談しましょう。

■ 矯正治療例
主訴:受け口(反対咬合)
初診時年齢:7歳6カ月 女児
動的治療期間:1年3カ月
初診時 治療終了時

歯並びが悪いとナゼいけないの?

VOL.1
Q.歯並びが悪いとナゼいけないの?

A.みなさん、近ごろ歯並びの良い芸能人やモデルさんが多いと思いませんか? 最近のオーディションや各種面接のチェック項目に『歯並び』が入るぐらい、相手に与える印象の面から重要視されているようです。1回目の今回は『歯並びが悪いとナゼいけない?』の疑問にお答えします。
 こう問われて頭に浮かぶのはおそらく『見た目の悪さ』だと思います。実際、矯正専門医院を訪ねる方の90%は『見た目』を気にして来院されます。しかし、矯正治療の第一の目的は『見た目』の改善ではなく、しっかりかめる良い歯並びと、正しいかみ合わせを作ることにあります。
 歯並びが悪くかみ合わせが不安定だと、かむ力が弱く、食べ物を十分に咀嚼(そしゃく)できずに、結果として胃や腸に負担をかけます。また、デコボコが多ければ歯磨きが難しく、虫歯や歯周病にかかりやすくなります。成長期のお子さんの場合は、歯の土台である顎の正しい成長発育が阻害され、上下の顎の過度な成長や非対称の成長により、顔がゆがんだりします。それ以外に蕫発音がはっきりしない﨟蕫聞き取りにくい﨟蕫歯並びがコンプレックスになり思いきり笑えず、引っ込み思案になる﨟など、心理的な発達への影響も考えられます。
 歯並びは『見た目』だけではなく、このような障害をもたらすのです。ぜひ、子どももおとなも、歯並びに興味をもって、鏡を見てみましょう。一番怖いのは、「本人が気にしていなければ矯正の必要がない」という自己判断です。もし少しでも気になる場合は、お近くの矯正専門医院にご相談されることをお勧めします。

 次回は『何歳からはじめたらいいの?』です。

何歳になったらはじめたらいいの?

VOL.2
Q.何歳になったらはじめたらいいの?

A.最近、学校歯科検診では、『不正咬合(悪い歯並び)』をチェックし保護者に報告するようになり、以前より早い時期に子どもが矯正歯科専門医院を訪れる機会が増えました。日本矯正歯科学会は、なにも問題がなくても7歳になったら専門医を受診することを推奨しております。これは、歯の数やはえ方の異常、むし歯や歯肉の病気を早期に発見することができるからです。
 個人差はありますが、子どもとおとなの歯が混在する時期(混合歯列期)である、7歳ごろから10歳ごろまでに部分的な矯正治療でアゴの正しい成長発育を導きます。
 次に、すべての歯がおとなの歯になる(永久歯列期)12歳以降に本格的矯正治療を開始し、しっかりしたかみ合わせを完成させます。この2段階の治療が最も理想的です。
 子どもは歯並びの良し悪しを自分では判断できませんから、早期に専門医を受診し、問題を発見できるかは親の責任です。
 また、親が無理強いした矯正治療は、途中で歯磨きがおろそかになり、むし歯のリスクが増えたり、治療を放棄することが多いため、できるだけ早い時期に矯正歯科専門医院に連れてゆき、歯並びの大切さを話してもらい、本人が納得することが大切です。
 おとなの場合は、いくつになっても矯正治療はできますので、ご自分の歯並びを治したいと思い立った時が、治療を開始する時となります。ただし、加齢とともに治療した歯が増え、歯周病の問題もでてくるため治療が難しくなりますので、少しでも早いほうがベターです。

 次回は『私の歯並びっていいのかな? 悪いのかな?』です。

私の歯並びっていいのかな?悪いのかな?

VOL.3
Q.私の歯並びっていいのかな?悪いのかな?

A.専門用語で正しい歯並びを「正常咬合」、問題のある歯並びを「不正咬合」と言います。今回は不正咬合の簡単なチェックポイントをお話します。
 お口の中を見て最初に確認することは歯の本数で、正しい歯並びであるためにはこれが大前提となります。通常乳歯は上下各10本ずつの計20本、永久歯は親知らずを除くと上下各14本ずつの計28本があり、1本でも多くても少なくてもその時点で不正咬合となります。歯の本数が正しくてもまだまだ安心できません。
 次の項目をチェックしてみてください。

(1) 歯が連続的に並んでおらず八重歯やデコボコがある
(2) 上の前歯が極端に前へ突き出て唇が閉じにくい
(3) 下の前歯が上の前歯より1本でも前にある
(4) 咬んだ時に下の前歯が見えない
(5) 奥歯で咬むと上下の前歯が咬み合わずその隙間から舌が見えている
(6) 上下の前歯の真ん中の線がずれている

 これらの6項目はどの年代でも1つでも該当すれば立派な不正咬合です。逆に言えば当てはまらなかった方は良い歯並びの可能性が高い訳ですが、ここには挙げきれなかった多くの不正咬合があり、一見歯並びが良く見えても、実際咬み合わせを調べてみると咬めていない場合もあります。少しでも疑問をお持ちの場合は、早い時期に矯正歯科専門医院を受診して長期的な治療計画を立てましょう。

 次回は『指しゃぶりっていけないの? ―歯並びに影響する悪習癖―』です。

指しゃぶりっていけないの?

VOL.4
Q.指しゃぶりっていけないの?
― 歯並びに影響する悪習癖 ―

A.子どもの歯並びが悪くなる原因は、遺伝による先天的要素も多大にありますが、成長過程における環境や習慣などの後天的影響も深く関わってきます。中でも特に問題になるのが「くせ」です。
 歯並びを悪くする「くせ」には、「指しゃぶり」「唇をかむ」「舌をかむ」「爪や鉛筆をかむ」「ハンカチや毛布をかむ」「おしゃぶりの長期使用」等があります。せっかく良い遺伝子を受け継いでも「くせ」により、良い歯並びは悪い歯並びに変貌します。今回は歯並びを悪くする「くせ」のナンバーワンである指しゃぶりについてお話します。
 幼児の指しゃぶりは3歳ぐらいまでなら、本能的・生理的な行動の一つですから、やめさせなくても心配いりません。問題なのは5、6歳になっても続き、指にタコができるような強い指しゃぶりです。これは将来的に間違いなく出っ歯やさまざまな不正咬合の原因となります。
 指しゃぶりをやめさせる古典的な方法として、「指にマスタードや辛子を塗る」「手を包帯でグルグル巻きにする」などをよく耳にします。これでやめられれば問題ありませんが、無理にやめさせると情緒的に不安定になり、ほかのくせが現れる場合もあるので注意が必要です。
 最も効果的なのは、本人に何故いけないのかをしっかり自覚をさせることです。3歳を過ぎればある程度のききわけがつきますから、マメに注意して自然にやめる方向に導くことが重要です。それでもやめられない場合は、指しゃぶり防止装置の使用をお勧めします。お近くの小児歯科または矯正歯科専門医院にご相談ください。

 次回は『矯正治療中の歯磨きって大変そう、痛そうだし…』です。

矯正治療中の歯磨きって大変そう、痛そうだし…

VOL.5
Q.矯正治療中の歯磨きって大変そう、痛そうだし…

A.矯正治療中は、食べカスが装置に付着し、歯ブラシが届きにくい部分ができるので、むし歯ができやすくなります。しっかりかめるきれいな歯並びを得るための装置が、むし歯製造機になってしまっては本末転倒です。歯科医が毎日ご自宅まで行って指導はできませんので、食べたら磨く習慣を本人の自覚でしっかりつけることと、家族の協力が重要になってきます。歯科医院で定期的な歯のクリーニングや歯磨き指導を受け、矯正専用歯ブラシや歯間ブラシなどで丁寧に正しく磨けるようになれば、むし歯をふせぐことはできます。口うるさいほど歯磨き指導に熱心な歯科医院は、矯正治療を受けるには良いと言えるでしょう。もしむし歯を作ってしまえば矯正治療を中断しむし歯の治療を優先しますので、矯正期間が延長してしまいます。
 また、矯正治療中の痛みについては多くの患者さんが不安に思うようです。痛みは大きく分けて2種類あります。第1は歯が動く時の痛みで、治療が始まり月1回の診察を受けた後、平均で3、4日は特にごはんを食べるとき、すなわち上下の歯が合わさるときに痛くなります。その後徐々になくなり、毎月それを繰り返します。よって長い矯正期間中ずっと痛いわけではありません。第2は治療開始直後、矯正装置と粘膜が擦れてできる口内炎による痛みです。そのうち粘膜も慣れて再発しにくくなりますが、複雑な装置にワックスをつけて粘膜との接触を和らげたり、塗り薬によって改善することもできます。どちらも個人差はあってもがまんできる範囲の痛みですので、安心してください。

 次回は『銀色の矯正装置ってイヤだな…目立たない方法は?』です。

銀色の矯正装置ってイヤだな…目立たない方法ってあるの?

VOL.6
Q.銀色の矯正装置ってイヤだな…目立たない方法ってあるの?

A.欧米で歯列矯正をするということは社会的ステイタスを意味し、適齢期になると堂々と銀色の装置をつけて治療を受けるのが一般的です。残念ながら日本をはじめアジア諸国では、矯正治療の不安の一つに『装置が目立つ』ということがあり、まだまだ隠す傾向にあります。そのようなご要望を受け、矯正治療の装置は日々進化しています。
 例えば、より目立たなくするために、同じ金属でも銀色ではなく、日本人の歯や肌の色に合うゴールド色の装置や、歯を動かすための白いワイヤーも使われはじめています。また、プラスチックやセラミックでできた透明の装置をつけることにより、見た目のストレスはかなり解消されました。しかし、透明といってもやはり歯の表側につけますから、まったく気づかれない訳ではありません。
 そこで、人知れず治療をしたい場合には、歯の裏側に装置をつける『舌側(ぜっそく)矯正治療』があります。もちろん表側から見てもまったく装置は見えませんので、見た目を気にされる方には最良の装置と言えるでしょう。舌側矯正治療は技術の向上により、以前のように期間が長いとか、仕上がりが悪いということはなく、できない症例も少なくなりました。
 矯正専門医院で治療される場合、矯正装置の種類で治療の良し悪しは決まりません。大切なのは、装置が銀色でも透明でも、表側でも裏側でも、それぞれの装置のメリット、デメリットをよく理解した上で、ご自分のライフスタイルにあった装置を選択され、強いポリシーをもって矯正治療にあたることが望ましいのです。

 次回は『何歳まで矯正治療ってできるの?』です。

何歳まで矯正治療ってできるの?

VOL.7
Q.何歳まで矯正治療ってできるの?

A.近ごろ成人の矯正治療が、急速な伸びを示しています。特に、40代の女性から『この歳でも矯正治療できますか?』という質問をよく受けます。
 基本的には口腔内が健康であれば矯正治療は何歳でも可能です。成人してからの矯正治療は、目的や問題を正しく意識して行えるため、効果的に進めることができ、全体的な矯正治療に抵抗がある場合でも、部分的な矯正治療によって口腔内環境を整えれば、長持ちする良い修復物(詰め物、差し歯、ブリッジ等)を作ることができる利点があります。
 しかしながら成人に達すると、骨が硬くなり歯の移動が遅くなったり、悪い歯並びの長期放置により、むし歯や、歯ぐきの問題である歯周病等にかかり、抜歯されたり、修復物が増えるため、治療が複雑になったり、期間が長くなる欠点もあります。
 20年~30年前は専門医も少なく、矯正治療は一般的でありませんでした。そのために矯正治療をできなかった健康志向の高い人が、成人になった今積極的に矯正治療に取り組み始めています。また、子どもの付き添いで矯正歯科専門医院に行くのがきっかけとなり、親子で始めるケースが少なくありません。今後、白い目立たない装置の使用や、裏側からの見えない治療の普及により、成人矯正の需要はますます増えることが予想されます。

次回は『どこに行けば矯正治療が受けられるの?保険はきくの?』です。

どこに行けば矯正できるの? 保険はきくの?

VOL.8 最終回
Q.どこに行けば矯正できるの? 保険はきくの?

A.正しい矯正治療を受けていただくための指標として、各種矯正歯科学会の認定医制度があります。例えば、日本矯正歯科学会では、大学病院等における5年以上の矯正歯科臨床経験を有し、厳しい審査に合格した歯科医師が認定医として認められております。
 矯正専門医院の先生の多くはこの認定医を取得しておりますので、専門医院を受診するのが安心と言えるでしょう。もし、専門医院ではない場合、すべての歯科医師が矯正技術を習得しているわけではありません。「矯正歯科」の標榜があることと、専門の知識を持った先生が治療するのかをご確認ください。そして、いくつかの医院を訪問し、先生の考え方、診療室の雰囲気、スタッフの対応、費用等を比較検討することをお勧めします。
 また、矯正に関する情報は以前より入手しやすくなっています。その上で、ご自分のライフスタイルに最も合った診療室で、矯正治療を受けてください。
 残念ながら日本では矯正治療は自由診療が原則で、地域や診療室によって治療費に違いがあります。高額なイメージの矯正治療費ですが、分割払いを採用している診療室が多いのでご安心ください。ただし顎が極端にズレている顎変形症や、唇顎口蓋裂等の先天疾患の症例に限り、健康保険が適用されます。

 矯正治療に少しでも興味を持たれている方は、積極的に専門医院の扉をたたいてください。きっとあなたの人生は笑顔に溢れ、豊かになるはずです。 〈完〉

心も体も健やかに 求められる心療内科

〈Vol. 1〉 ストレスを感じることが多い今、20代・30代の患者さんが増えています
心も体も健やかに 求められる心療内科

 アニマルセラピーや、アロマテラピー、カラーセラピーなど蕫癒しブーム﨟と言える現代。このブームは、変化が激しい社会にストレスを感じ、「何かに癒されたい」「前向きな気持ちになりたい」とSOSを発信している表れなのかもしれません。そんな中、注目されているのが、心と体のストレスを癒す「心療内科」。宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに「心療内科」について連載で伺っていきます。

■ 心療内科とは?
 ひと言で言うと「初めから心身両面に注意を向けて診療する科」。軽い精神科だと思っている方も多いのですが、内科です。心と体は密接な関係を持ち、身体的な不調を治す場合に、心理的なケアまで踏み込まないと治療効果が上げにくい場合があります。
 また、心理的な疾患には、体の不調を伴う場合も多いのです。心と体のどちらの心配ごとでも、相談できるのが心療内科だと思ってもいいかもしれません。

■ どういう患者さんが多いの?
 20代~30代の女性が多いですね。気分が落ち込む、やる気が起こらない、イライラする、不安感が強い、眠れないなどの状態が長く続いたり、極端な例だとパニック障害や摂食障害などになる方もいます。更年期障害で相談にくる方も多いです。
 また、頭痛や嘔吐、呼吸困難、下痢など身体的な症状が出ているのに、内科で検査して「悪いところはありません」と言われ、心療内科を受診する方もいます。
 軽い鬱(うつ)状態の人も増えています。放っておくと生活に大きな支障となることもありますが、優れた治療も開発されているので、早めに受診することを勧めます。

■ どんな治療をするの?
 “心の治療”とは格好のよい言葉ですが、神経学的・内分泌学的にも、心の働きの本質理解にはもう少し時間がかかるようです。
 では、どんな治療をするのかと言うと、患者さんの訴えを丁寧に聞き取り、カウンセリングする心理療法。心の安定化ホルモン分泌を順調にする薬剤や、中国医学を用いた漢方製剤を処方する薬物療法を用いています。  心や体に心配ごとがあったら、気軽に心療内科に相談してください。

環境の変化で心が疲れていませんか?

〈Vol. 2〉 子育て中のお母さんや働く女性のストレスをケアする「心療内科」
環境の変化で心が疲れていませんか?

 毎日、少しでもホッとする時間はありますか? 今日誰かに、自分の思ったことを話しましたか? 実はそんな小さなことがとても重要。子どもの誕生や入学、就職、昇進など、新しい環境を迎えた人のストレスが症状に現れるのが3カ月前後。今、「心療内科」を受診する人が増えていると、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんは言います。

■ 能力とのギャップと人間関係
 環境の変化に伴い、心や体にさまざまな症状が現れることを「適応障害」と言います。原因は、新しい環境と自分の能力にギャップやプレッシャーを感じて起きてしまう場合と、人間関係になじめずに起きてしまう場合の2つに分かれます。
 女性に関して言えば、子育てを始めたお母さんは、一日中子どもの相手をして、夜ご主人が帰ってきても相手をしてくれず、報われない気持ちになる。ご主人の転勤で引っ越した場合は、近所付き合いもなく閉じこもってしまう。また、働いている方は、職場が変わって周りの人や職種と合わず、抑うつ状態になってしまう場合があります。

■ 真面目な人がかかりやすい
 夜寝るときには抑うつ状態でも、朝起きると回復していたり、家族や友達に話してストレスを発散できれば、問題ありません。「適応障害」にかかる人の多くは、責任感が強く、真面目な完ぺき主義で、「身近な人にも弱みを見せられない」と一人で抱え込んでしまうのです。
 もし、症状が1~2週間も続いてしまうようなら、心療内科に相談してください。必要なのは、第一に休養、医師やカウンセラーとのカウンセリング、漢方も含めた薬です。今や「うつは心の風邪」と言われるほど、多くの人がかかるもの。治療をすれば、予想以上に早く改善する人もいます。“治せる病気”なんだと理解してください。

こころの症状 からだの症状
やる気がでない
興奮する・イライラする
なんとなく落ち込んでいる
何をするのも面倒でおっくう
興味や関心がわかない
集中力がなくなる
涙もろくなる
疲れやすい・肩こり
朝起きられない
食欲がわかない
動悸・めまい
頭痛・腹痛・便秘・嘔吐
不眠
のぼせ・呼吸困難

現代の良き母は、自分を楽しむことができる人

〈Vol. 3〉 子育て中のお母さんのための心療内科
現代の良き母は、自分を楽しむことができる人

 今、子育て中のお母さんで「心療内科」を受診する人が増えています。子育てに悩んだり、精神的に不安定になり、医師に助けを求めにいく。そんなお母さんたちには、育った環境にかかわらず、ある共通の考え方が植え付けられているのだと、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんは言います。

 治療にくる子育て中のお母さんに、私はまずこんな質問をします。

 ・ 子どもがどう育つかは、父親より長く接している母親の責任が大きい
 ・ 子育て中もこれまでと変わりなく、家事は女性がやるものだ
 ・ 子どもや夫が元気でいられるように気を遣うのは妻の役目だ

 ほぼ全員が「はい」と答えます。では、これらができなかった場合はどうなると思いますか? 
 例えば、赤ちゃんの夜泣きがひどく、何をやっても泣きやまない。夫には「明日仕事なのに眠れない」と怒られる。幼児期になると、習い事をさせてみたが、高い月謝を払っているのに上達せず、ほかの子に差を付けられていると焦る。
 このように子どもを持つお母さんには、マタニティーブルーを含め、子育て中のさまざまな出来事から、うつ的傾向が見られることが多いのです。涙もろくなったり、無力感、疲労感、不眠、食欲不振、集中力・記憶力の減少など。ひどくなると、不安やイライラ感から子どもを傷つけてしまうのではないかと思ってしまうことさえあります。そして、そんな自分を責めてしまうのです。

■ 子どもは子ども、自分は自分
 そんなお母さんたちに共通しているのは、昔から唱えられてきた“良妻賢母であれ”という考え方です。時代や家族の形態は変化しているのに、根強く残っている“女性らしさ”の追求。しかし、良き母であるため「3歳までは子どもと一緒に過ごしたほうがいい」と社会復帰を諦めたお母さんが、「世間に置いて行かれる気がする」と不安になり、一番身近で弱い子どもにあたってしまう。それでは本末転倒です。
 育児にストレスを感じたら、子どもを預けて友達と食事に行くなど、自らが楽しむことです。「子どもがすべて」という考え方から、「自分は自分、子どもは子ども」とある時は距離を置く。それが、子どもの自立にもつながります。
 それでもストレスを発散できない場合は、医師に相談してください。

20代~40代の女性のほとんどが悩む「月経前症候群」 “我慢することが当たり前”の毎月の症状を快適に

〈Vol. 4〉 20代~40代の女性のほとんどが悩む「月経前症候群」
“我慢することが当たり前”の毎月の症状を快適に

 眠い・体が重い・イライラするなど、月経前の不快なシグナル蕫月経前症候群﨟。「毎月のことだし、生理が始まれば治るから」と我慢している人が多いのでは? しかし、今は子育てや仕事で忙しい女性が多い時代。毎月のことだからこそ我慢せずに快適に過ごしてほしいと、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんは提唱しています。

 私は産婦人科の専門医でもある心療内科医なのですが、日本の月経前症候群の研究はアメリカに比べて遅れていると感じます。それは、日本にまだ「月経前の不調は病気ではない」という考え方が残っているからです。
 しかし現在、20代後半~40代前半の女性の7~8割の人に何らかの軽い症状が、2~3割の人には日常生活に支障がでるほどの症状が見られます。その中でも、全体の5%~10%の人はかなり重い症状を持ち、月経前に自殺者が多いというデータもあるほど、注目すべき病気です。
 身体的な症状は、腹部膨満感(お腹の張り)・頭痛・便秘・下痢・乳房の痛み・足や顔のむくみ・吐き気・ニキビ。心理的には、イライラ・興奮しやすくなる・不安・集中力の低下・うつ的状態・抑うつ気分・性欲の低下など。ひどくなると、心身不調のため、日常生活が破たんしてしまうこともあります。

■ 生活習慣や漢方薬などで改善
 原因として考えられるのが、周りの人間関係などの社会的なもの、脳内ホルモンのバランスがくずれることによる生物学的なもの、ストレスなどの心理学的なもの。
 例えば、核家族のお母さんは家事と子育てで忙しく、症状が出ていても休むことができないでしょう。仕事を持つ女性は、社会的な立場や周りからの抑えつけから症状が強くなる。妊娠回数が減り、月経回数が増えていることも要因だと考えられます。
 症状の改善には、日ごろからエクササイズなどのリズミカルな運動をする、食事は糖分や塩分を減らしてうす味にする、コーヒーやアルコールを控えて果物や野菜を十分に採ることが大切です。治療は主に漢方薬やホルモン剤が使われ、症状がひどい場合には排卵を止めたり、安定剤などを投与することもあります。
 これからは女性がもっと社会で活躍する時代となります。我慢せずに、気軽に医師に相談してください。

産後半年以内に多く発病する深刻な現代病

〈Vol. 5〉 産後半年以内に多く発病する深刻な現代病
10人に1人がかかっている“産後うつ病”

 「子どもは産む前よりも、産んだあとのほうが大変よ」と出産経験者はよく言います。実は、これには身体的な大変さ以上の深い意味も込められているのです。今、さまざまなメディアで特集が組まれるほど、問題視されている“産後うつ病”について、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに聞きました。

 出生数が減り続けているのと反比例するように、妊娠した女性の出産することへの関心と要望は、年々高まっています。そうした思いを受け、産科施設ではさまざまな出産方法を提示したり、陣痛から出産までの苦痛を小さくしようとする取り組みがなされています。出産そのものに対する、心と体に対するケアは、以前に比べて格段に向上していると言えます。
 しかし、出産後のケアについては、十分な配慮がなされているでしょうか。残念ながら、過去と同じレベルでしかないのが現状です。おまけに、核家族が増えている現在、お母さんと子どもが孤立してしまう状況で、誰にも相談できないまま、育児にうまく適応できずに苦しんでいるお母さんが増えています。
 初産婦の80%くらいは、出産の2・3日後から、気分の落ち込み・イライラ・不安・不眠などの不調を感じることがあります。これを“ベイビー・ブルース”と呼びますが、多くは1週間以内に自然に治ってしまいます。けれども、そうした不調が長引いたり、出産後しばらくしてから、より重い心身の不調(産科的以外に)が発生する場合があります。これが産後うつ病です。

■ 自分と子どもを傷つける前に
 これは10人に1人という割合で、誰もがかかる可能性のある現代病、と言えます。子育てのストレスが過労を生み、さらに、“子どもをちゃんと育ててこそ立派な母親”という考え方に追いつめられて、脳の活動が低下し、うつ的になってしまうのです。
 子育てに不安やつらさを感じたら、なるべく外に出ることと、自分の時間を持つこと。そして夫や周りの人に、自分のつらさを話し、協力してもらうことです。子育て中のお母さんを支援する、さまざまな団体を利用するのもいいでしょう。
 放っておくと、自分や子どもを傷つけたりする危険性もあり、自分一人では対処が難しいので、なるべく早い段階で受診することをお勧めします。

心と体の曲がりかど“更年期”を快適に

〈Vol. 6〉 中国医学の力を借り、心に目を向けて
心と体の曲がりかど“更年期”を快適に

 今年大ブームとなった“冬ソナ”。ヨン様に心をときめかせたり、ロケ地めぐりをするという行動は、実は、更年期を迎えた女性にはいい効果があるそう。多くの女性が悩む更年期について、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに聞きました。

 閉経前後からの数年間、さまざまな症状で苦しむ方がいます。まず、のぼせ・ほてり・自汗・動悸などの血管運動の異常。次に、しびれ・腰痛・肩こり、という知覚系の異常。あるいは、外陰部・泌尿器系統の異常もあります。また、めまい・耳鳴り・頭痛・不眠・憂うつ感・不安などの精神神経的な異常。
 こうした状態を“更年期障害”と呼びます。主な原因は、卵巣機能低下による女性ホルモン不足。それならば、女性ホルモンを補うことで改善されると考えますが、そう簡単にはいきません。
 1つには副作用の問題。最近、米国の調査で、乳がん・心発作・脳卒中の増加などの副作用を無視出来ないことがわかりました。ですから、ホルモン治療を受ける時は、医師と良く話し合うことが大切です。2つめは、ホルモンを補っても症状の改善が見られない例があること。その場合、抗不安薬・鎮痛剤などを併用しますが、それでも良くならない方もいます。

■ 熱中できる何かを探すこと
 では、どうしたら良いか? 私は中国医学的考え方による治療をお勧めします。中国伝統医学では、更年期症状を老化現象によるものと月経停止によるものの、2つの原因からと考えます。老化が原因の方には、ホルモン剤が良く効くでしょう。しかし、月経血が体内に残り、末しょうの血流に乱れが生じて症状が出ている場合は、漢方薬が力を発揮します。
 また、更年期症状は多かれ少なかれ精神心理的な側面を抱えています。閉経で女性らしさが無くなったと思う寂しさ・子どもの巣立ち時期と重なっての寂しさ・夫の定年などによる生活の変化、などが心にのしかかる。心の空白。これが症状を悪化させています。
 こう考えると更年期は、体についてはもちろん、心にとっても曲がり角であると言えるでしょう。その期間を快適に過ごすには、まず“熱中できる何か”を探してみてください。ヨン様にときめいたり、ご主人と一緒にできる趣味を見つけるのもいいでしょう。
 それでも症状に苦しむ場合は、医師に相談してください。婦人科的な診察ばかりではなく、中国医学的、そして心に向けての診療を受けることで、更年期を快適に過ごすことができると思います。

不快な日常生活がもたらす、うつ的神経症

〈Vol. 7〉 20人に1人が当てはまると診断される
不快な日常生活がもたらす、うつ的神経症

 「病は気から」とは蕫病気は心のもちようで重くも軽くもなる﨟ことですが、現代は、本当に病は気(ストレス)からかかることが多いそう。そこで、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんにストレスが原因のうつ的神経症について聞きました。
 精神心理的な異常や不調には、大きく分けて2種類あります。1つは、現実世界とかけ離れた精神心理状態が基本となる病的状態。統合失調症と精神症状を伴う重症のうつ病が典型的です。2つ目は、いわゆる神経症と呼ばれている状態で、原因の多くは日常生活の中にある不快なストレスによると考えられます。
 今回は後者のうつ的神経症(学会では、気分障害・うつ病エピソードと呼ばれる)について説明します。心療外来を訪れる半数以上にこの診断が当てはまります。ある統計では日本でも20人に1人はこの診断が当てはまると述べています。
 症状は、
(1) 憂うつと悲しみが心に広がり落ち込む
(2) 興味をもてるものが無くなり、行動を起こす気力が低下する
(3) 他人との接触が面倒になり、外出が苦痛になる
(4) 決断力と集中力が無くなる
(5) 不眠・頭痛・けん怠・食欲や性欲の減退・どうきなどの身体的症状
(6) 心が疲れているのにイライラ・不安がつきまとう、という6つに大別されます。

■ 家庭内トラブルや人間関係から
 ストレスの発生源は、家庭内のトラブル、職場・学校内でのあつれき・オーバーワーク、友人・隣人間でのかっとうなど。そして、それらは患者さんの体と心を日夜苦しめているのです。最近の研究で、ストレスが心を順調に保つ脳内ホルモンの活動を悪くしていることが判明し、神経症の一つの原因と考えられるようになっています。
 理想的な治療法は、ストレスの源から自由になることです。しかし、現実にはとても難しいことなので、部分的な自由を得ることで妥協せざるを得ません。具体的には、職場・学校を一定期間休むこと。家族や友人、周囲の人との関係を改善するために、認知行動療法や対人関係療法のカウンセリングを受けることなどです。
 しかし、現段階では薬剤による治療が中心となっています。ストレスで活動が悪くなった脳内ホルモンを正常に戻す薬剤に、不安を鎮める安定剤と不眠に対する睡眠薬が加わります。こうした組み合わせで、多くの患者さんの症状は軽快・治癒し、薬剤を服用しないで日常生活を支障なく送れるようになります。
 ストレスが解決できないほど大きくなる前に、少しでも早く医師に相談してください。

原因は同じで主症状が違う、2つの神経症

〈Vol. 8〉 原因は同じで主症状が違う、2つの神経症
ストレスが“不安”と“うつ”を作り出す

  少し前までサラリーマンが「ストレスで胃に穴が開いちゃったよ」と言うのが定番だったストレスの病。今や多くの女性や子どもの心をむしばんでいます。前回に続き、ストレスが原因の「不安神経症」について、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに聞きました。

 前回の「うつ的神経症」を読んで、「私もうつ病にかかっていると思うのですが」と相談にこられた方が何人かいました。その中に、「不安神経症」という診断名がより妥当とされる例があり、患者さんに伝えたところ、うつ的神経症と不安神経症の違いについて質問を受けました。
 「不安神経症」の症状は、心が安まらない感じ、強い疲労感、集中力の低下、イライラ、頭痛、肩のこり、不眠、どうき・息切れ、消化器症状など。これらの多くは「うつ的神経症」の症状と共通しており、「不安神経症」に抑うつ気分が加われば、おそらく診断は「うつ的神経症」となるでしょう。いや、神経症のうちで、心が安まらない感じが強ければ「不安神経症」、抑うつが強ければ「うつ的神経症」と呼ぶ、というべきでしょうか。
 2つの神経症の背景には同じく、脳内でのセロトニンとノルアドレナリンというホルモンの代謝に異常が起きていることがわかっています。すなわち、病理的な原因は同じで、症状の現れ方に違いがあるということです。

■ 身近な人に話すことが予防に
 前回、「うつ的神経症」の原因はストレスだと書きましたが、ストレスをうまく処理できなかったり、心の奥にため込んでしまうと、不安が生じます。ひどくなると、ある人は不安が強く出て「不安神経症」になり、ある人は不安と共に落ち込みが現れ「うつ的神経症」になります。
 不安とは、“開放できないストレス”と表現できるかもしれません。軽いストレスは人の生活を向上させるよい刺激ですが、強すぎる、また長引くストレスは人を不健康な状態に陥れます。ストレスが不安を生み、さらにうつを招くのです。
 軽い不安が生じたとき、それをどう解消するかが神経症の予防と考えます。しかし現代は、むしろ不安をあおるような環境ばかり。不安を感じたら、まず身近な人に打ち明けることです。それでも解消しない場合、または相談できる相手がいない場合は、早めに専門医に相談してください。

神経症の一つである“ペットロス症候群”

〈Vol. 9〉 神経症の一つである“ペットロス症候群”
大切なものを失ってしまった悲しみと苦しみ

 犬や猫と一緒に住める家や泊まれる宿、学校まで、ペット関連商品が人気の今。ペットとの触れ合いで癒される人が多い一方、ペットの死を迎えて、悲しみから抜け出せない人も。最近よく耳にするペットロスについて、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに伺いました。

 米国の精神科医・ホルムスは、人生におけるさまざまな出来事のストレス度を数値に示しています。それによれば、最も大きなストレスは配偶者との死別で、値は100。離婚が73、家族の死と拘禁が63、病気とけがが53、結婚50、失職47と続きます。すなわち、大切なものを失うこと(ロス)が、最も大きなストレスになると言うのです。夫や妻を失った人や、子どもを失った親の深い悲しみは誰もが共有できるものでしょう。問題は、愛着度に個人差があるものを失った悲しみの場合です。
 例えば、愛がん動物(最近ではペット)を失ったことで嘆き・苦しむ人に「たかがペットのことで大げさ過ぎないか」と、慰めよりも軽べつに近いまなざしを向けること。これは、その人をさらに追いつめてしまいます。人は悲しみ・苦しみの中で孤立してしまうと、抑うつと無気力にとらわれがちです。ペットロス症候群がこの状態です。不安の時代において、ペットを愛情と依存の対象とし、そのペットを失って悲哀を経験する方が増えています。それに伴い、ペットロス症候群という言葉を聞く機会が増えてきました。

■ モーツァルトも劇中で主張
 歌劇「フィガロの結婚」の第4幕冒頭で、バルバリーナという少女が「ピンをなくしてしまった」と、悲しみの小アリアを歌う場面があります。ここに流れる音楽は、劇中で最も暗く、人の深淵に潜んでいる無限の悲しみを堪えています。物語ではいわく付きの蕫ピン﨟なのですが「器物をなくすことによってさえ、人間は普遍的な悲しみの極みを味わってしまう可能性があるのだ」とモーツァルトが主張しているように私は感じられます。
 ペットを失うことは、ある人にとってストレス指数100にもなります。犬や猫と生き物同士として接してみると、彼らを人間同様の、それ以上に親愛なる存在と思える時が訪れるかもしれません。ペットロス症候群は決して特殊な病態ではなく、喪失を原因とする神経症の一つなので、独りで悩まずに医師に相談してみてください。

この時期にかかりやすい「適応障害」を防ぐ

〈Vol. 10〉 この時期にかかりやすい「適応障害」を防ぐ
新しい環境を楽しむために必要なのは?

 4月から新しい環境でがんばり始めて、少し疲れを感じてきてはいませんか? 年齢や性別にかかわらず、今の時期に悩む人が多いのが「適応障害」。そこで宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんが、新しい環境にうまく適応する方法をアドバイスしてくれました。

 4月は環境の変化を多く体験する月です。それまでの環境を離れ、新たな世界へ旅立つ。格好良く聞こえますが、変わる本人にとっては喜ばしいことばかりとは限りません。新入学生・社員が「勉強・仕事についていけるだろうか」「良い先生・上司に当たるだろうか」「周囲からイジメを受けないか」など考えて、憂うつになる。遠い場所への転勤は、親にも子にも大きな不安をもたらす。幸運であるはずの昇進も、うれしさより苦痛を感じる。このような状態が長く続くと、神経症と呼ぶべき状態に陥ってしまうことがあります。

■ 2人の博士が提案する適応法
 どうしたら新しい環境に適応しやすいか?
 まず、米国の医学博士・エイメンさんの認知行動療法的発想に基づいた提案を紹介しましょう。

(1) 悪いことだけに注意を向けず、良い部分やメリットを中心に考える
(2) ~するべきことだ、~しなくては、と考えずに、~したい、~することは良いことだと考える
(3) 相手が何も言っていないのに、自分に悪い感情を抱いていると決めつけない

 次に周囲との協調性を考えることに関して、当院の医師・水島広子著「自分でできる対人関係療法」から引用します。

(1) できるだけ蕫言葉﨟で伝えたほうがよい
(2) 間接的な言葉は誤解のもとになりやすい
(3) 勝手に納得しないこと
(4) 相手はわかっているはずだと思いこまないこと

 生きるとは、時々刻々に変化する自分の心身を時々刻々に変化する環境に適応させていく、とも言えます。事実をそのまま受け入れ、変化する自己と環境を楽しむこと。
 もし、自分一人の力でできない場合は、周りの人に相談してください。それでも、不安や抑うつ状態が長く続いたり、体調に変化がある場合は、心療内科を受診してください。以前にも書きましたが、「うつは心の風邪」と言われるほど、多くの人がかかり、治療をすることで治る病気です。カウンセリングや漢方も含めた薬の力を借りて、本来持っている適応力を強めていきましょう。

わかっているのに、止められない「強迫神経症」

〈Vol. 11〉 わかっているのに、止められない「強迫神経症」
不安や恐れの悪循環が日常生活を困難に

 “こうなっちゃったらどうしよう”と、悪い方向へ考えてしまう最悪シミュレーション。最悪な事態に備えるためならいいけれど、不安から日常生活が送れなくなることも。宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに「強迫神経症」について聞きました。

 最近、「強迫症」に関し、2人の方から相談を受けました。1人は「鍵をかけて外出したつもりでいても、家から離れると本当に鍵をかけたかどうか心配になる」。もう1人は「小学校に入学したばかりの長男が、学校でちゃんと勉強しているか、ちゃんと給食を食べたか心配で仕方がない」。どちらも、「こんな風に考えてしまう自分は強迫症なのか?」というもの。
 蕫強迫﨟とは精神心理学的に、無意味または不合理と思われる考え、行動が支配的となっている状態と説明されます。つまり、考えまいとしていても、何度も何度も思い浮かび、頭から離れない。前者がそうです。
 誰でも強迫観念に襲われることはあります。その強迫観念による不安や苦痛を打ち消すために、同じこと(強迫行為)を繰り返し、日常生活に支障が起きた場合を「強迫神経症」(専門的には強迫性障害)と呼びます。汚れてしまうことを恐れて、何度も何度も手を洗ったり、公衆電話や電車のつり革が使えなくなる。いつも決まった場所に整理整とんされているかが気になり、仕事が手に付かなくなる。自分でも無意味だとわかっていて、止めたいと思っているのに、止められないのです。

■ リズムを合わせる訓練を
 強迫神経症の方を診ていますと、不安・抑うつ神経症の方よりも、性格的な要因が強いように感じます。「世界の中で自分だけ心理的に孤立しており、世界の波長やリズムに自分のリズムが合わない」。強迫症に悩む人々は、自分のリズムに不本意ながらも執着し、自らも無意味だと思える行動を繰り返しているように感じ取れてなりません。
 まずは、医師の診察やカウンセリングを受けてください。さまざまな治療法があり、医師が有効な治療法を選んでくれます。また、川の流れや波の音に心をゆだねる、リズム感にあふれる短歌や俳句を口ずさむ、しなやかなリズムを持つ音楽を心に刻むなど、自身でも、世界のリズムと自分のそれが交歓して生きられるような時を持ってみてください。

悩み・ストレス・環境などから発症する「不眠症」

〈Vol. 12〉 寝付きが悪い・何度も目が覚める・眠りが浅い症状の睡眠障害
悩み・ストレス・環境などから発症する「不眠症」

 一日の果てに訪れる心の静寂。ささやかな満足感に包まれながら睡眠が始まり、翌朝爽やかに目覚める。当たり前のように感じるこの“睡眠”が原因で、つらい毎日を送っている人がいます。その「不眠症」について、宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに伺いました。

 最も多い睡眠障害である不眠症には、
(1) 寝付きが悪い
(2) 何度も目が覚めてしまう
(3) 熟睡した感じが乏しい・眠りが浅い

 という3種類の訴えがあります。どうして眠れなくなるのか。原因は、室温・室内の静けさ・寝具などの環境がもたらすもの。日常生活におけるストレスが主因の場合(精神生理的不眠)。神経症・精神病の一症状。そのほか、原因を特定できないもの(特発性不眠)があります。これらの中で、一般的に不眠症と言われるのが、精神生理的不眠と特発性不眠の2つです。
 不眠症に悩んでいても、不眠ぐらい自分で治すべきだと考え、アルコールの力に頼ったり、薬局などで購入した睡眠薬を服用する方や、睡眠剤に対する警戒心から医療機関を受診しない方が少なくありません。しかし、精神生理的不眠と特発性不眠では治療薬剤が違いますし、神経症による不眠では神経症に対する治療も必要になります。さらに、アルコールに頼ると不眠を悪化させる危険性が強く、中毒へと進む恐れもあるので、医師の診療が不可欠なのです。
 睡眠剤の危険性については、医師の指示通りに服用すれば、依存症に陥る可能性や、休薬後のリバウンドの心配も極めて低いと言えます。

■ 眠れなければ眠らなくていい
 不眠が続き、眠れないことで悩むようなら、以下の対処法を試してみてください。
(1) 日中の眠気で困らなければ、睡眠時間は気にしない
(2) 眠くなるまで床につかない
(3) 毎日同じ時刻に起床する
(4) 昼寝は午後3時より前の20分間にする
(5) 眠りが浅いときは、遅寝早起きをする

 中には、不眠が続くと体が弱り、命に危険が迫るのでは、と考える方がいますが、人間の体は崩れる前に自然に眠るようにできているので、その心配はありません。しかし、不眠が原因で心理的にも身体的にもつらい症状が続き、日常生活に影響を及ぼすようなら、きちんと医師の診察を受けてください。

夏の暑さによる心と体の症状を改善

〈Vol. 13〉 女性の体のサイクルにかかわるうつや不安感
夏の暑さによる心と体の症状を改善

 排卵や月経など、体調の変化が激しい女性にとって、夏の暑さは嫌なもの。さらに、うつや睡眠障害など、心の不調が重なって、更年期障害を疑う人も多いとか。宇都宮市大寛町のうえの医院・上野裕さんに夏に多い女性特有の症状について聞きました。

 月経は、12歳ごろから始まり、だいたいが48歳~52歳の間で終わります。この間、順調に脳内から排卵ホルモンが分泌されれば、28日~30日おきに1個が排卵され、妊娠しなければ排卵後14日ごろに出血。これが月経です。月経開始から排卵までは体温が低温期で、排卵から月経までは高温期。基礎体温(BBT)を記録すると、排卵が順調に続いているか判断することができます。
 婦人科にはよく、月経が1週間経っても止まらない、10日も経ってないのに再び月経になったなどの症状で来院する方がいます。こうした異常は無排卵が原因であり、出血=月経というわけではありません。ほかにも、高温期になると心身共に調子が悪くなる、排卵がない、あるいは少なくて妊娠できない、排卵痛や月経痛に苦しむなど、排卵に関する女性の悩みはたくさんあります。特に蒸し暑い夏の不快感が脳内の不調を生み、ホルモン分泌を乱して排卵を止めたり、月経痛や高温期の症状をより耐え難くします。

■ 20人~30人に1人が心理症状も
 これらの身体的症状と、心理・精神的症状を同時に抱えている方は多く、20人~30人に1人の割合といいます。例えば無月経に、情緒不安定・憂うつ感・集中力低下・眠気・不安感など。また、30代で月経が順調にある方が、心身に不快が起き「私は更年期障害ではないでしょうか」と来院したという極端な例もあります。月経の異常に関しては婦人科での診療が最適ですが、女性特有の症状であっても、精神・心理的な症状が加わっているなら、婦人科以外に精神科や心療内科に相談することをお勧めします。
 現在では、男女共同参画というあり方が少しずつ広がり始めましたが、女性の排卵をめぐる生物学的なハンディを可能な限り小さくしていくのも医師の大きな役割だと考えます。私は漢方薬の力を大いに利用していますが、各医師が独自の方法で、不快感を改善する夏の暑さ対策を考えています。心と体に不快を感じたら、医師に相談してください。

「対人恐怖症」と呼ばれていた「社会恐怖症」とは?

〈Vol. 14〉 「対人恐怖症」と呼ばれていた「社会恐怖症」とは?
毎日の生活にあるコミュニケーションへの不安や恐怖

 授業で人前に出て発表する、PTAなどで大勢の人や初めての人に会う、というのは誰でも少なからず緊張するもの。しかし、それが恐怖感となって社会生活に支障をきたす「社会恐怖症」が増えているとか。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに伺いました。

 「他人の視線を受けると気になって仕方がない」という人が、15歳前後の男性で45%、女性では60%もいるというデータがあります。それが、20歳代後半以降では10%に急降下するそうです。
 しかし、他人の視線を強く意識し続け、日常生活に支障をきたす「社会恐怖症」と診断される人もいます。以前は「対人恐怖症」と言われていたこの疾患について説明しましょう。

1) 他人に紹介される
2) 皆の注目を浴びている
3) 自分にとって重要な人物や目上の人に会う
4) 少人数で会話する

 これらに際し、激しく緊張・恐怖した結果、

1) 心拍数が跳ね上がる
2) 顔面が真っ赤になる
3) 口やのどがカラカラに渇く
4) 手が震える

 などの状態になる。患者自身、自らの恐怖・緊張が過剰反応で合理的ではないと分かっています。しかし、人と接する場になると、このような状態に陥ってしまう。そして、低く自己評価し、他人の批判・哄笑(こうしょう)を恐れて、コミュニケーションを回避しようと考えるのです。

■ 思春期に多く、中年でかかる人も
 多くの場合、思春期前半までに発症しますが、中年になって初めてかかる人もいます。また、女性は男性の2倍かかりやすいと言われます。
 原因は、医学的には、恐怖感をコントロールする大脳の一部に問題が生じる、あるいは内分泌的不調。心理学的には、他人の行動とその結果を悲観的に見てしまうことで、人と接することの難しさが深層に植え付けられた、と考えられています。私は「無意識に感じる自分へのこだわりと、それを他人には知られたくないという遠慮深さの矛盾が、原因の一つである」と考えます。
 治療は、森田療法・認知行動療法といった精神療法と、神経症治療薬や安定剤による薬剤療法が多く用いられます。また、疾患の性質上、対人関係を重視したグループ療法が今後の治療法として期待されています。自分やお子さんに思い当たる症状があるようなら、専門医を受診してください。

疲れは体の異常を訴える警報

〈Vol. 15〉 夏の不快さによるダメージがツケとなって現れる9月
疲れは体の異常を訴える警報

 最近「疲れた」と感じて、家で一日中ゴロゴロしたり、マッサージを受けたけど、なかなかだるさが取れないということはありませんか? 宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、“疲れ”のメカニズムと、効果的で簡単な対処法を伺いました。

 9月に入ってから“疲れ”を訴え来院する患者さんが目立つように思います。長く、蒸し暑い夏がもたらした浅い眠り、食欲不振、運動不足、冷房の浴びすぎ、冷飲料過摂取などが、多少とも涼しくなった9月にツケとなって現れたようです。
 “疲労=疲れ”とは、肉体の酷使、精神的ストレス、睡眠不足に対する生理的で重要な反応なのです。厚生労働省の「疲労に関する研究班」は「疲れは、身体の異常を教え、何らかの対応をせよと考えさせてくれる、大切な警報」と述べています。そして、その疲れを最初に感じる場所は、神経症やうつ病の発生と深く関連するホルモンによって働きが調整される大脳前頭皮質・ブロードマン10野だと言っています。すなわち、「脳内での疲労が回復しなければ、体をいたわるだけでは疲労は完全には回復しない」ということです。

■ 緑や音楽が疲労回復に役立つ
 では、どんなことをしたら脳の疲労を回復できるのでしょうか。前述した研究班は蕫緑の香り﨟を浴びることを一番に推奨しています。森や林に身をゆだね、緑の香りを満喫したときの心地よさは、誰しも経験済みでしょう。音楽を聴くことも脳疲労の回復に役立つ、と私は確信しています。例えば、ワーグナー「ジークフリート牧歌」、ドボルザーク「アメリカ」、ボロディン「弦楽四重奏第2番」、ヴォーン・ウィリアムス「ひばりが昇っていく」など。
 反対に疲労が続いてしまうと、身体的な症状が加わる場合があります。具体的には、微熱、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、羞明(しゅうめい)、下痢、腹痛といったもの。さらには、もの忘れ、睡眠障害、イライラ、不安感などの精神・心理的症状も出現する場合もあります。
 また、心臓疾患や糖尿病、悪性腫瘍などの重大な疾病が原因で疲労を感じる場合もあります。十分な睡眠、健康的な食事、心のリラックス、適切な仕事量、ストレスの少ない環境への移動を心がけても疲労が回復しない時は、躊躇(ちゅうちょ)なく医師の診察を受けてください。

うつ病は子どもでもかかるの?

〈Vol. 16〉 イライラしたり、元気のない子どもが増えています
うつ病は子どもでもかかるの?

 今、子どもの成人病が増加していると問題視されています。しかし、これまで大人だけのものと言われていた病に子どもがかかる例は、身体的なものだけではないようです。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに“子どものうつ病”について伺いました。

 先日、「最近、うちの子が食欲も元気もなく、ぼんやりしていることが多くて、学校も休みがちです。子どもにもうつ病はあるのでしょうか?」という問い合わせがありました。答えは、「子どもでもうつ病にかかる」です。当院でも時々、親御さんが心身の不調をもった中学生のお子さんを伴い、診療にいらっしゃいます。その中には、明らかに“うつ”と診断される場合があります。
 精神心理学者の和田秀樹さんは「1976年以降に生まれた日本人には、うつ型人間が少ない」と述べていますが、興味深い話です。医師・傳田健三さんの著書「子どものうつ病」の内容と合わせて、見解を述べてみましょう。

■ 騒がしすぎる環境が原因では?
 成人では神経症(社会環境からのストレスが原因)の一つとして、うつが起こることが多いのですが、17歳以下の場合、素因が主であるうつが多いと考えられます。
 症状は、大好きだったことに興味が持てなくなった、友達と遊ばなくなった、ボーッとしている、勉強に集中できない、忘れ物が多くなった、成績が落ちる、学校を休みがちになる、気持ちが暗く沈む、悲しいなどの精神心理の異常。また、イライラや不安、不機嫌が現れることも。身体的には、不眠、過眠、食欲低下、便秘、吐き気、だるさ、頭痛、自汗、動悸、肩こりなど実に多彩です。
 本の中で傳田さんは「子どものうつは増えていると感じる」と述べています。なぜか? 私は、少数派のうつ型人間にとって、現在の日本は騒がしすぎるのではないかと推測します。テレビから流れる音楽・言葉、教室内、街角、どこもかしこも騒がしすぎて、心が休まるときがなく、疲れ果ててしまうのです。
 現在、「抗うつ薬は18歳未満には可能な限り投与しない」という意見が優勢で、医師によりさまざまな治療を行っています。当院では漢方薬を中心に処方し、精神心理的なアドバイスをしています。もし、お子さんにうつ的症状が見られたら、ためらわずに心療内科を受診させてください。

カウンセリングにどんなことを期待しますか?

〈Vol. 17〉 患者さん自身の行動が大切
カウンセリングにどんなことを期待しますか?

 以前から、このコラムで心の病の治療法として出てきた“カウンセリング”。どんなことをするのか、どれほど効果があるのかは、あまり知る機会がなかったのではないでしょうか。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに“カウンセリング”について伺いました。

 「私はカウンセリングを期待して心療内科に来たのに、全くやってくれず、ガッカリした」と、ときどき言われます。患者さん側と医師側の、カウンセリングに対する思いの違いから発生するひとコマです。
 両者の違いは、あたかも世間に言う“占い”と、中国の“易経”の差のように思えます。占い師が相談者の未来を条件付きで規定する占いは、いわば他力本願です。易経は、その時点での相談者の傾向を暗示し、それをもとに自らが未来を選択するのです。
 多くの患者さんが期待するカウンセリングは占いと似ています。静かな部屋内のゆったりとしたイスに座って、自分の過去から現在までを語り、それをもとに医師は心につきまとうストレスをあぶり出し、しかるべき方法でストレスを消し去る。あるいは、心に不調が生じやすい性格を変えてくれる│という課程を心療内科の診察だと考え、カウンセリングと感じているようです。

■ 心を開放する魔法ではありません
 一方、医師がカウンセリングという言葉を使う場合、一つは治療を進める上での方針を決める際に患者さんと相談することを、もう一つは精神療法の一部を指します。しかしそれは、多くの方が期待しているような一瞬にして心を開放する魔法ではありません。心の不調の源が、正しくない認知性にあればそれを修正する、対人関係のつたなさにあるならばそれがうまくなるようなプログラムを提供する。そこからは、患者さんの行動が主となります。自らが主体とならねば成果は期待できません。
 ほかにも、同様の苦しみを持つ複数の患者さんがお互いの体験などを語り合う“グループ診療”や、患者さんの語りを共感しながら傾聴することを主とするカウンセリングもあります。
 医師が誠意をもって患者さんの話を聞くことこそ、心の診療のアルファ(最初)であり、オメガ(最後)であることは永遠の真実です。心の不調に悩んでいる方は心の医師を訪れ、語り合っていただきたいと思います。

受験会場で“あがらない”ためには?

〈Vol. 18〉 「急性ストレス反応」に似た受験生のストレス
受験会場で“あがらない”ためには?

 受験は時に「戦争」などと形容されるほど激しく、受験生にとって大きなプレッシャーとなるものです。そんな中で、自分の力を出せるか出せないかは大きな鍵。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに「受験会場で実力を出す方法」について伺いました。

 12月は受験生にとっては追い込みモードへと転換を図る時期となり、「ここ一番という試験場であがらず、いつもの力を出せるようにするにはどうすれば良いか」という質問が、受験生の親から発せられます。
 そこで、“あがる”ということを考えてみましょう。その根本には“不安”があると考えます。学力面での不安、また「試験前夜に眠れなかったら」「風邪をひいてしまったら」「大雪だったらどうしよう」という不安。そうした不安にさいなまれ続けて余裕を失う上に、初めての試験場で大勢の受験生に囲まれるのですから、不安がピークに達するのは当然です。一方で合格への焦燥が増す…。それらが複合すると、受験生にとって強烈なストレスとなり、「急性ストレス反応」と呼ばれる病態に似た状態に陥ることがあります。ひどく“あがってしまった”状態で、動悸・手の震え・口渇(こうかつ)・吐き気・息苦しさ・集中困難・注意の狭まり・記憶の脱落などが出現します。これでは、とても試験には立ち向かえません。

■ 不安を軽減するさまざまな方法
 どうしたら“あがる”ことを防げるか?最も重要なことは不安を軽減することです。まず、学力に関する不安を和らげる方法として、

(1) 志望校の過去問題をできるだけたくさん解いて、傾向を頭に焼き付ける。実際の試験の際、親近感を抱き、リラックスして問題を解けるでしょう。
(2) 過去の模試などの成績で良かった時だけを思い、悪かったものは封印する。
(3) 試験直前まで勉強を続ける。勉強が最良の安定剤なのです。
(4) 自分が落ちた姿も合格した姿もどちらも想像しない。

 ほかに、友達を受験仲間と思い、不安を打ち明ける。宿泊は心地の良い宿にする。女性は月経に関する不安を婦人科医に相談するなども有効です。それでも心配ならば、受験1週間前から精神安定作用を持つ漢方薬を服用すること、また試験開始直前に肩の力を緩め、目を閉じて眉間の部分にしばし意識を集中させることをお勧めします。

周囲からは気づきにくい“鬱(うつ)症”

〈Vol. 19〉 女性の月経周期にも関連している症状
周囲からは気づきにくい“鬱(うつ)症”

 「軽くウツ入ってて」などと普段の会話でも使われるようになってきた蕫鬱﨟という言葉。感情の起伏なのか、病気なのかは自分ではなかなか判断できないもの。そんな疑問を持つ方々に、宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんが答えてくれました。

 「周囲から“元気で明るい人ね”とよく言われますが、実際には憂うつな時が結構あるのです。私は躁鬱(そううつ)症じゃないでしょうか?」という質問を複数の方から受けました。しかしそのような場合、少なくとも躁的な状態にはないと思われます。本当の躁的状態は、とても高圧的である・大きな声でしゃべる・自慢ばかりする・身勝手に振る舞うなど、他人に迷惑をかける行動を繰り返します。褒められることなどなく、むしろ周囲から人が遠ざかって行ってしまいます。注意すべきことは、躁鬱症か否かではなく、鬱症か否かであると考えます。
 人間は外向的と内向的な二つのタイプに分けられます。主観的な判断を基本とする内向タイプの人が鬱的になった場合、他人の目をあまり気にかけませんから、鬱が外に現れやすく、周囲の人に比較的早く異常を発見されます。しかし、客観的な既成事実を重要視する外向タイプの人が鬱的に陥った場合、人の目を気にし、他者の前では努めて鬱を隠そうとしがちなので、周囲からは鬱とは見えにくく、一人で悩み続けることが往々にしてあるのです。

■ 悩み続ける前にセルフチェック
 同じような心配を抱いている方には、次のような点をチェックしていただきたいと思います。

1. 寝付きはよいか・眠りは浅くないか
2. 食欲・性欲の低下があるか
3. 気力・集中力の低下はないか
4. 好きだったことが楽しく感じられているか
5. 怒りっぽくないか

 これらに関し、以前と異なる状態が起きているときは、鬱的になっている恐れがあるので、医師に相談してください。
 また女性の場合、月経周期に関連して鬱的になることがあるので、注意が必要です。特に月経の一週間前から月経までの間に鬱的になることが多いのですが、月経開始と共に鬱が消え去れば、鬱症ではないでしょう。こうした状態を“プチ更年期”と名付ける人もいますが、更年期とは全く違いますので、安心してください。

携帯、買い物、どうしても止められない! これって依存症なの?

〈Vol. 20〉 いつも携帯電話チラチラ、お金がないのに買い物してしまう
どうしても止められない! これって依存症なの?

  あなたのストレス解消法はなんですか? お酒、たばこ、買い物やギャンブルなど、さまざまでしょう。一度で終わるはずのストレス解消が、習慣化し、やめられなくなってしまう。そんな“依存”について宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに聞きました。

 たばこ・お酒などの嗜好(しこう)が強い、ブランド物をついつい買ってしまう、インターネット・携帯電話がいつも気になる。こんな状態が続くと「私は依存症ではないか」と心配になり、相談に訪れる方がいます。
 病的な依存状態、「依存症」とは“強い関心と嗜癖(しへき)を抱く対象自体、あるいは対象を獲得する代価が、当人の社会生活を崩壊させ、当人や家族に不利益をもたらす領域に陥った場合”だと私は考えています。例えば、アルコールの多量摂取により肝機能に異常が、また脳機能の衰退が起こって日常生活に支障が生じた時などです。
 この疾病の研究で著名な医師・斉藤学さんは依存症の特徴として、強迫性・衝動性・反復性・どん欲性の4つを挙げています。依存が病的なものか否かを判断する場合、特に強迫性とどん欲性の程度が重要視されます。

■ “買い物の女王”が語る依存
 依存の対象については、大きく次の3つに分類されます。

1. 物質(アルコール・たばこ・コーヒー・薬物など)
2. 人間関係(セックス・家族など)
3. 行動様式(買い物・パソコン・ゲーム・宗教・ギャンブルなど)

 中村うさぎさんという作家がいますが、彼女は“買い物の女王”などと言われる有名な浪費家です。自らを買い物依存症と診断し、「何千万円というお金をかけて買ったブランド物を、家の中でゴミとしてしまった女」とも説明しています。著書「愚者の道」は、心理学や哲学の視点からも読み応えのある名書ですが、依存が気になる人が読むと、胸につかえていたものが、少なからず排泄されるのではないかと思います。彼女は言います。「破滅へのリビドー(欲動)が浪費を促し、経済的破滅へと追い立ててきたのだ」と。それとともに、現実からの強い逃避欲動が依存を病的なまでに深刻化させている、と私は考えます。
 依存症の治療に関しては、薬剤が効果的なこともありますが、同じ悩みをもつ集団でのグループ療法が最も有効です。

攻撃性を持った思春期の子どもたち

〈Vol. 21〉 反抗期とは違う、仮想世界への執着
攻撃性を持った思春期の子どもたち

 「脳内汚染」。脳神経学者で医療少年院の勤務医の岡田尊司さんが、ゲームやインターネットに興じる子どもたちへ警告を送るこの本が、ベストセラーとなっています。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに“現代の思春期”について伺いました。

 子どもから大人への移行期は思春期という美しい言葉で呼ばれ、中学から高校時代がまさにその期間に当たります。第二次成長が明らかになってくることで、子ども時代から決別を促され、また自己への関心が増し、その自己を過大、あるいは過小に評価しがちな傾向にある時期です。
 こうしたときは不安定になりやすく、不安・抑うつ、反抗的態度(反抗期)が出現する傾向にありますが、明らかな暴力・自己破滅行動にまで発展することはまれです。ところが最近、少年少女が起こす残酷な事件が増えています。
 「大きな要因は、テレビ・テレビゲーム・インターネットへの依存」と「脳内汚染」の著者・岡田尊司さんは言っています。仮想世界に埋没する子どもたちは、自然や隣人との接触をわずらわしく感じるようになってしまいます。そして、映像媒体での暴力的シーンに影響され、他者へ攻撃的になったとき、子どもたちが標的にしやすいのが、隣人である家族や級友なのです。

■ 子どもからのサインとは?
 では、家族はどうしたらそのサインに気付けるのか。日常生活に根ざした不安や不機嫌なら反抗期と考えてよいと思います。ところが仮想世界へ執着し、家族・友人との付き合いなどの現実的なことを面倒がる、社会への無関心、などは注意が必要です。
 私たちが子どものころは自然を感じとる静けさがありました。風や雨の音、夕焼けの彩り、夏の夜の深さ…それらを感じながら遊び、勉強し、心が広がったのです。
 小さいお子さんをお持ちのご両親には、自然とともにある時間を増やす、歴史が育んだ言葉で語る、という2つに取り組んでいただきたいと思います。
 また、思春期のお子さんをお持ちなら、自分が自然や歴史、そして社会の一員であると感じさせることが大切です。心療内科では、その第一歩としてカウンセリングを行っています。もし、お子さんの何らかのサインに気付いたら、心療内科に相談してください。

タイプに分かれる新環境への適応法

〈Vol. 22〉 入学・就職・転勤・異動など変化があった人へ
タイプに分かれる新環境への適応法

 4月は入学・就職・転勤・異動など社会生活に大きな変化がある時期。新しい環境に進んだ人は、期待感とともに少なからず心に不安も起きているはず。そこで宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに“新環境になじむ方法”について伺いました。

 “新環境になじむ=適応する”とは、新たな学業や仕事をこなせるようになることと、新たな対人関係に自分をうまく溶け込ませること、の2つに尽きると言えるでしょう。前者に関しては、それまでに培った自分の能力を基礎に日々努力を重ねていくことで適応していくわけですが、問題なのは後者。すなわち新たな上司・同僚・部下・級友との対人関係に適応できるか否かと感じます。
 精神科医の和田秀樹さん、水島広子さんの著作を参考にして、この問題を考えます。
 どのような場合に人間関係をうまく築けない可能性が高いのか? それは自分が苦労性・引っ込み思案であり、対する相手が頑固・自信過剰・自己中心的なタイプである場合です。

■ 苦労性と引っ込み思案の対人関係
 苦労性の人は自分が嫌われること・みんなの輪に入れないことをとても怖がります。そういう自分の前に自信過剰・自己中心的な人が立ちはだかると、苦労性の人は「とてもこの相手には好かれない・こんな人が中心にいる仲間には入れてもらえない」と早合点し、自分の殻に閉じこもってしまいがちです。こうしたタイプの方へは、自分と自分以外のみんなという対立軸で見るのではなく、周囲の人々を分析し、自分対Aさん・自分対Bさん…という風に一対一で対人関係をとらえる。その中で気の合う人との関係を築き、うまが合わない人とは距離を置くようアドバイスしています。また自分を過大に評価する傾向をもっている引っ込み思案の方へは、自分を特別な人間と見ず、自分の言動が評価されないで当たり前と思って、人と接するようアドバイスしています。
 新たな環境に不安を感じ、過去の環境を理想化しやすいのが人の常です。しかし、変化・変遷を求める心が人間を地球の至るところに存在させ、ほかの天体にさえ人足を残させた原動力なのです。新しい環境は、新たな可能性への出発ととらえてみてください。
 それでも悩みが解決しないようなら、心療内科医に相談してください。

子育ての終わりと更年期が重なる心の変調

〈Vol. 23〉 ホルモン療法と漢方薬で症状が改善
子育ての終わりと更年期が重なる心の変調

 男性が定年退職で「燃え尽き症候群」になるように、子どもを持つお母さんにとって“子育てを終えること”は大きな変化。この春、巣立つ子どもを見送ったお母さん、心や体に不調はありませんか? 宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、その対処法を伺いました。

大切に育ててきた子どもたちが進学・就職などで家を離れ、心に空洞を抱えて過ごしている人(特に女性)が少なくないと思います。こうした年代は、いわゆる更年期と重なってしまう場合が多々あります。家庭生活の変化が原因の心の変調…憂うつ感、イライラ、気力の低下、不安感などに、更年期の不快症状である肩こり、腰痛、頭痛、不眠、のぼせ、自汗などが加わると日常生活に大きな支障をきたします。

 48歳から52歳の間に閉経(排卵の停止)をむかえる女性が9割で、閉経の前後1年間くらいを更年期と考えます。この期間に前述した不快症状が現れる場合を、更年期障害と呼びます。第一の原因は卵胞ホルモンの欠乏にあり、ホルモンを補充することで症状の緩和が期待できます。また、ホルモン療法には骨粗しょう症の予防・治療効果もあります。ただし、乳がん・子宮体がんに対するチェックが必要です。

■ 芸術や文化を楽しむ余裕を持つ
 ホルモン療法でも軽快しない更年期症状には、漢方薬を使います。冷え性傾向の人には、五積散(ごしゃくさん)・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・温経湯(うんけいとう)などから選択。ほてるタイプの人には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)・加味逍遥散(かみしょうようさん)などを選びます。
 閉経したことや生活変化への適応不全が主因となる精神心理症状については、対処する基本は身体的・社会的変化を受け入れ、その変化を前進的にとらえること。子育てのエネルギーを自らの世界を広めることに費やしたり、毎月の月経にまつわるうっとうしさから開放されたと感じることが大切です。
 人類の歴史が生んだ芸術や文化。“それらを味わい、楽しむ余裕ができた時期”と、更年期と巣立ちをとらえてみてはいかがでしょうか。具体的な行動として、江戸や明治の歴史を念頭に都内を歩く、欧米の一流楽団でブラームスを聞くなどをお勧めします。症状が長引くときは、婦人科や心療内科医に相談してください。

心も体も重くなる梅雨のストレスを解消

〈Vol. 24〉 日本の暮らしを支えた独特の気候
心も体も重くなる梅雨のストレスを解消

 洗濯ものは乾かないし、家の中に湿気がこもり、臭いが気になる。外に出ると雨に濡れてぐちゃぐちゃ…。そんな嫌な季節を迎え、不快な思いが募っていませんか。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、心が重くなりがちな梅雨の過ごし方を聞きました。

 灰色の雲から雨が落ちてくる日が続くと、知らず知らずに気分が沈み、体も重くなります。心の不調が悪化しやすい時期は2つあり、その一つが5月から6月にかけて。大型連休が過ぎてしまったせいもありますが、梅雨という独特な気候こそ主因だと感じます。心身の健康を保つには、この時期をどう過ごしたらよいか考えてみましょう。
 冬の日照不足による心身の不調を治療するために開発された光療法の原理から考えると、梅雨どきは努めて部屋を明るく保つこと、好みのハーブ類の芳香で部屋を満たすことも心を楽しくさせるでしょう。湿気は胃腸の動きを悪くしがちなので、炭水化物・脂質を減らし、薄味で消化のよいものを多くとり、お酒は醸造酒よりも蒸留酒をお勧めします。
 さらに、体を普段より清潔に保ち、女性は美容室、男性は理容室を多めに訪れることをお勧めします。すがすがしさは頭からという訳です。また、梅雨どきは思いのほか寒暖の差があるので、風邪にも注意が必要です。学生の方は、低下しがちな集中力を高めるため、できるだけ得意科目を優先して勉強してください。

■ 漢方薬で気の流れをスムーズに
 もし心が梅雨に寛容になれば、その独特の気候こそ水と緑に象徴される日本人の暮らしを支えてきたものだと思うゆとりも生まれます。しかし、体はすぐに梅雨というストレスに適応できるとは限りません。そんなときは漢方薬が役立ちます。気象ストレスと心身の相関については、中国医学が西洋医学を断然リードしており、湿気や沈む心が蕫気﨟の流れを阻害し、湿気の局所停滞が心身に不調を発生させると捉えます。その不調には、蕫気﨟の流れを順調にする理気薬(りきやく)と湿気の停滞を解消する化湿薬(かしつやく)を組み合わせて対処します。
 心の中で太陽に再会したいときには、モーツアルト「ピアノ・ソナタ15番」の第1楽章をお聴きください。無量の光に全身が染まるでしょう。それでも心が晴れないときには、心療内科を受診してください。

変化のある時期に起こる男性の更年期障害

〈Vol. 25〉 8つのチェック項目、思い当たるのはいくつありますか?
変化のある時期に起こる男性の更年期障害

 最近、ご主人の様子が変だと感じたことはありませんか? 女性なら年齢を考え、更年期障害で診察を受ける方も多いようですが、男性の更年期障害はまだ一般に認知されてはいないよう。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに男性の更年期障害について伺いました。

 最近、更年期障害に対する関心が高まり、男性の更年期にも注意が向きつつあるように感じます。加齢・ストレスなどによる男性ホルモン・副腎皮質ホルモンの低下を主因と考える研究者が多いようです。
 40代後半以降の男性が性欲・勃起力の低下を覚えるとき、以下のチェックをアメリカ・セントルイス大学のモーリー博士は勧めます。

1.元気がなくなってきた
2.集中力の低下
3.身長が低くなった
4.生きる喜びの低下
5.憂うつな感じがしやすい
6.歩く力の減退
7.眠気が出やすい
8.仕事の能率が上がらない。

の8つで、3つ以上あてはまる場合、更年期障害の恐れがあると言いいます。女性と違い、劇的に変化があるわけではなく、症状は神経症と似ていますが、これまで2日~3日で改善していた不調が長引いたり、性欲の低下が見られる場合は、男性更年期障害を疑ってもよいと考えます。

■ 夫婦の関係が快方への鍵
 更年期を迎える人の多くは、定年・進学や結婚のための子の独立などで夫婦間の環境に大きな変化の起きる時期に症状が出ます。換言すれば、夫婦が向き合う時間が増える時期です。妻側からは「今までは自分のペースで過ごせたのに、夫がずっと家にいるため、外出もままならない」という声も聞こえてきます。そんな折、夫が1~8に示した状態に陥っていたら、夫に対するうっとうしさが増し、ひどい場合は家庭内別居・熟年離婚への道をたどることも。
 そんな悲劇を防ぐには、まず結婚式当日を思い出すことです。その日、二人は永遠の愛を誓ったはず。そうです。結婚とは契約なのです。二人で積み重ねた時の重みをかみしめてください。そうすると、夫への接し方が変わってきます。そして、更年期障害について理解し、夫にやさしく診療を勧めるべきです。ホルモン補充・抗精神剤・漢方薬などによる治療を通じて心身にゆとりが生じ、2人の関係にも温かさが戻るはずです。

ストレスが原因のさまざまな疾病

〈Vol. 26〉 社会生活上の人間関係が主な要因に
ストレスが原因のさまざまな疾病

  “こころと体の健康”というコラムのテーマに沿っていながら、これまで取り上げていなかった「ストレス」。なじみのある言葉だけに“病”と考えない人も多いのでは。今回はストレスが体に及ぼす影響について、宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに伺いました。

 精神心理的なストレスが、心に対してだけではなく体にも悪影響を及ぼすことは、よく知られる通りです。しかし、具体的にどんな症状となるのか、どのような疾病と関連するのか、疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
 生きるということは、安定した身体機能を維持することと、危険が迫ったときにその危険から身を守ること、この2つを満たし続けることです。現代においては、社会生活上での人間関係が、最多で深刻な危険因子=ストレスとなっていると考えられます。
 人が何かの危険にさらされたとき、するどく反応する交感神経(自律神経のひとつ)は、人間関係が不快だと認識したときにも同じく反応します。そうした状態が長く続くと、もう一つの自律神経・副交感神経(身体機能安定をはかるもの)との協調にほころびが生じ、「自律神経失調症」と呼ばれる病態に陥ることがあります。症状例として、疲れ・首や肩のこり・眼精疲労・頭痛・息苦しさ・のどの違和感・めまい・吐き気・下痢などが挙げられます。

■ 体だけでなく心理的なケアも
 またストレスは、免疫・内分泌代謝機能を乱し、多くの身体疾患を発生、悪化させる一因ともなります。高血圧症・慢性胃炎・気管支喘息・アレルギー性皮膚炎・腰痛症・神経性頻尿・顎関節症など、ストレスの影響が強い疾患は、心に対する診療をおろそかにしないために「心身症」と呼ばれる場合があります。同じ高血圧でも、病院で白衣を見ると血圧が上がるという人には、血圧を下げるだけではなく、心理的な安定を図る処方も必要だからです。
 では、ストレスの影響を受けにくくするには、どうしたらよいのでしょう。精神医学者・福西勇夫さんは、こう言います。

1.ストレスに積極的に立ち向かう
2.人生での満足度を高くする
3.周囲の人から強いサポートを受ける

 それでもストレスに負けていると感じたら、心療内科を受診してください。

男女を問わず悩んでいる人が多い脱毛・薄毛

〈Vol. 27〉 心理的ストレスが新しい髪の成長を損なう
男女を問わず悩んでいる人が多い脱毛・薄毛

 このところ、男性だけでなく女性用の育毛剤や髪の毛にボリュームをもたせるウィッグのコマーシャルが目立つようになりました。現代人にとって大きな問題の脱毛・薄毛について、原因や対処法を宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに伺いました。

 脱毛・薄毛と言えば一般には男性の悩みと思われていますが、先日「アンチエイジングカレッジ」の講演で、女性にも同様の悩みを抱えている方が多いと知りました。
 男性に脱毛症が多い原因は、男性ホルモンが毛髪の成長を妨げるためと考えられており、加齢とともに頭頂部・前頭部を中心に髪が薄くなっていきます。
 一方、女性も男性の10分の1程度の男性ホルモンを分泌しており、閉経前後=更年期に女性ホルモンが激減すると男性ホルモン作用が現れ、毛髪に悪影響を与え始めます(女性壮年期脱毛症と呼びます)。
 頭皮全体にわたって抜け毛・細毛が増え地肌が見えるようになるのが女性型の特徴です。脱毛の進行には心理的ストレスの程度(更年期に心理的ストレスにさらされ易い)も大きく影響しています。心理的ストレスをうまく処理できないでいると、末梢循環に不調が起こり、他種類の身体症状を表すことがあります。もし、男性ホルモンの影響で頭皮の血液循環量が減った状態が続けば、抜けた髪を補う新たな髪の成長が損なわれ、薄毛を深刻化させます。

■ 男性は内服薬、女性には塗布薬
 男性型脱毛症の治療薬では、昨年12月に発売された内服薬「ファナステリド」(商品名・プロペシア)があります。男性ホルモンの暗躍を抑えることで効果を発揮させるもので、服用には医師による診察が必要です。
 女性に適応する内服用育毛剤は今のところなく、頭皮塗布剤が脱毛症対策の基本となります。その一つ、ミノキシジルには女性用もあります。頭皮血行を改善して育毛を促すのですが、血圧降下作用もあるため医師と相談しながら使用してください。生薬では、桂皮(けいひ)・生姜(しょうが)・薬用人参・センブリ入りの塗布薬が育毛効果が高いようです。食べ物では、ニンニク・トウガラシ・コショウ・レモンは毛髪に悪影響を与えるので、控えてください。
 また、男女とも心理的ストレスは脱毛・薄毛に影響してくるので、心療内科の受診を勧めます。

“やせたい願望”“ストレス”が引き起こす拒食や過食

〈Vol. 28〉 “やせたい願望”“ストレス”が引き起こす拒食や過食
思春期以降の若い女性に多い摂食障害

  “やせたい”や“食べたい”は多くの女性が持つ欲求。しかし、それが過度になると、食べることに対して異変が起きます。今、思春期の女性に多いという拒食や過食。そんな「摂食障害」について、宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに伺いました。

 思春期以降の若い女性に多い、摂食に関する異常を摂食障害と呼び、それは拒食タイプと過食タイプに分けられます。どちらも、第二次大戦後の欧米に増え、近年は日本でも普通に見られるようになってきました。
 拒食タイプとは、体重が標準より15%下回り、その原因が脂肪・糖分を極端に減らす、下剤の乱用・過度の運動など自己の意志によるものです。そして、肥満への恐怖を抱き、極めて低い理想体重を設定。無排卵が続くのが典型です。成因については、脳内セロトニンとの関連性を指摘する向きもありますが、摂食障害に対する素因をもつ人が精神心理的な負荷を受け、摂食中枢に異常が起こるため、と言われています。
 制限型拒食タイプ(過食を伴わない)の患者さんに接していると、決まってムンクの「思春期」に描かれた少女を思い出します。不安に満ち、思い詰めて未来を見すえるような表情。同様に彼女たちも、自分の未来に絶望的な不安を抱き、未来を恐れているように感じられるのです。若さゆえの不安・恐れ。それは具体的・日常的な物事に対するのではなく、直感的かつ内省的な性格からくるもの。こうした純粋拒食タイプには、未来を幅広く考えられるようなきっかけを提供するのが理想的です。

■ 多いのは過食を伴う摂食障害
 多くの拒食タイプは過食を伴うようになります。“やせ願望”と“摂食本能”との葛藤(かっとう)とも考えられますが、この段階になると薬剤による治療が有効な例が出てきます。
 現在に多く見受けられる摂食障害は、過食を主とするタイプです。この場合は、心的外傷や日常的なストレスが主因であることが多く、薬剤療法と精神心理療法の併用が効果的です。薬剤ではSSRI剤(抗うつ剤)がよく使用されます。また、集団で行う対人関係療法=グループ療法の中で、心の切り替えに気付くこともあります。 
 摂食障害は心の不調が体にも影響するので、心療内科を受診することをお勧めします。

“女性の尿もれ”のメカニズムと治療法

〈Vol. 29〉 心理的に不安定な状態から切迫性失禁になることも
“女性の尿もれ”のメカニズムと治療法

 最近、パンティライナーに尿もれをガードする専用品が発売されたり、テレビ番組でも取り上げられるなど、女性にとって身近な問題と言える“尿もれ”。人には言えない悩み“尿もれ”について、宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに聞きました。

 8月に行った「アンチエイジングセミナー」でも参加者から“知りたいこと”の一つに挙げられた尿失禁(尿もれ)。閉経まで十分に間のある女性でも悩んでいる方が多いようです。女性の尿道は太く短いので、男性よりも失禁しやすいのですが、もう少し詳しく触れてみましょう。
 尿失禁とは、咳やクシャミによって起こる腹圧性失禁と、尿意を催すと我慢できずにもれてしまう切迫性失禁の2つに分類されます。腹圧性失禁は、尿道を支える筋肉が老化や出産の影響で弛緩(しかん)することが主な原因と考えられ、第一の治療法は骨盤底筋訓練法で、薬剤療法は補助的なものに過ぎません。症状が強い場合、泌尿器科あるいは婦人科専門医による手術や、尿道を狭めるコラーゲン注入法を行います。

■ 尿意を感じると、我慢できない
 切迫性失禁については、過活動膀胱(ぼうこう)の一つの症状ととらえるのが最近の考え方です。過活動膀胱とは、尿意切迫感を中心とする病態で、頻尿・睡眠を中断させる尿意を伴うことが多く、その極端例を切迫性失禁とみています。すなわち、尿意を感じるやいなや我慢できずにもれてしまう場合が切迫性失禁なのです。脳・脊髄の異常、膀胱・尿道に関する異常によることもありますが、多くは原因が特定されない失禁です。心理的に不安定な状態におかれている方に、切迫性失禁を訴える例が多いように感じます。
 まず行うべき治療法は薬剤によるものです。膀胱の動きを抑制する抗コリン剤を3カ月間服用することで、約6割は改善がみられます。ただし、根本的解決には至りませんので、服用を続けなくてはなりません。
 そのほか、尿意を我慢することを訓練する方法もあります。薬剤を服用しながら、少しずつ排尿間隔を我慢して延ばしていくやり方です。水分やカフェインの過剰摂取をやめることが必要とする意見もあります。
 これらの治療法を行っても改善のないときは、精神心理的な側面からの診察をお勧めします。

心療内科&婦人科医・上野裕先生にリビングマロニエ編集本部長が聞く 女性が気になる「更年期」と「うつ」

〈特別編〉 心療内科&婦人科医・上野裕先生にリビングマロニエ編集本部長が聞く
女性が気になる「更年期」と「うつ」

 女性の病を、心と体の両面から考える「こころと体の健康をサポート」。今回は特別編として、この1年で特に読者の関心が高かった「更年期障害」と「うつ病」について、うえの医院院長・上野裕さん(写真左)に本紙編集本部長・渡辺慶子(写真右)が聞きました。
更年期障害
渡辺 女性にとって、“いつまでも若々しくいたい”というのは共通の願いだと思います。でも40代くらいになると、“以前より体力がガクンと落ちた”と感じる人が多いようです。これは、女性としての体の機能が衰えてきたためですか?
上野 月経が順調で女性ホルモンが十分出ているなら、体は大丈夫。むしろ、心の疲れの方が問題だと思います。
渡辺 そういえば、子どもが思春期で難しい時期だったり、介護の不安があったり、40代はストレスが多いですね。
上野 本当はストレスの蓄積で心が疲れているのに、体の具合が悪いと思いこむ人が少なくありません。悩みを人に話すだけで心が軽くなるので、まず誰かに相談してほしいと思います。
渡辺 実際に更年期障害に悩む女性は、何歳くらいの方が多いのですか?
上野 50歳前後の女性が多く、閉経前の半年間、閉経後の半年間くらいが一番更年期の症状が現れる時期です。
渡辺 閉経前でも更年期障害と呼ぶんですね! どんな治療があるのですか?
上野 ほてりや手足の冷え、だるさ、寝汗、やる気の低下などが見られる方に、私はホルモン補充療法(HRT)を5年を限度に行います。主に使うのは、飲み薬や貼り薬です。また、どの女性も閉経後数年は子宮内膜がんなどのリスクがあるので、定期的に検査を受けることを勧めています。
渡辺 更年期障害を女性の終わり、と感じて悩む患者さんはいませんか?
上野 そういう悩みが原因で、症状が長びく人もいます。たとえ閉経しても女性であることは変わらない、ということを忘れないでほしいですね。

うつ病
渡辺 更年期障害がきっかけで、“うつ病”になる人も多いと聞きます。うつと気分が落ち込んでいるのとは、どう違うのでしょう。
上野 日常生活に大きな支障がでたら、病気だと思ってください。例えば出勤前にとても憂うつになって会社に行けない、2~3日間家事も何も手につかないなど。他人からは怠けているように見えても、本人はふがいなさで焦りと不安を感じ、常に心が安まらない状態なのです。
渡辺 うつにならないためには?
上野 思いどおりにならなくても自分を責めないこと、孤立していると思いこまず、親しい人に相談することです。
渡辺 最後に、女性がずっと元気で若々しくいる秘けつを教えてください。
上野 音楽や絵など、“一流のもの”にはパワーがあります。自分が一流と感じるものにふれ、力をもらっていれば元気でいられると思いますよ。

話を伺った「うえの医院」の外観。 緑の竹が心を和らげます

ガン・脳卒中・心疾患から身を守る9つの生活法

〈Vol. 30〉 ガン・脳卒中・心疾患から身を守る9つの生活法
年の始まりに考える“心と体の健康”

  “一年の計は元旦にあり”と言いますが、新たに計画したこと、目標はありますか? 昨年、健康に不安があった人もなかった人も、新年を機に健康への意識を高めてみませんか。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、心と体の健康を守る方法について伺いました。

 新しい年の始まりに際し、健康で長生きすることを考えるとき、心においては日本古来の考えを取り入れてみてはいかがでしょうか。新年を、原点に戻り新たに出発するときととらえる考えです。あたかも、落葉樹が晩秋に葉を落とし、新たにつぼみから出直すように、心に蓄積した負の残滓(ざんし)を捨て去り、希望の芽を育む始まりとする。この祖先からの知恵は、心において元気を失っている個人をよみがえらせるきっかけになるでしょう。
 しかし身体的には、年を経るごとに機能が衰え、死に近づくのは致し方ありません。我々のできることは衰える速度を可能な限り遅くすることです。

■ ストレスによる免疫力低下も
 現代の3大死因はガン・脳卒中・心疾患となっていますが、元気で長生きする基本はこれらにかかりにくい生活を送ることに尽きます。脳卒中・心疾患の大きな原因として動脈硬化が存在していることは言うまでもありません。その危険因子として、高血圧・高脂血症・喫煙・糖尿病・過酸化物・ストレスなどが挙げられています。一方、ガン発生原因として、口から入るもの…すなわち偏食・喫煙・アルコール・化学物質などが重視され、またストレスによる免疫力の低下も少なからず影響していることも明らかです。
 では3大死因から身を守る生活法とは? 米国国立老化研究所によると

1.野菜・果物を十分とる
2.定期的に運動する
3.禁煙
4.冷気に当たりすぎない

 私の考えも加えると、

5.ファストフードを控える
6.かかりつけ医を持つ
7.安眠のためには妥協しない
8.悩みがあれば相談する
9.自然に触れる機会を増やす、など。

 年末になると、多くの日本人が帰省渋滞を不快に思いながらも故郷を目指します。それは自分の原点である故郷で新たな年を迎えようとする思いがあるように感じます。これを機に、心も体も健やかな一年になるよう、意識してみてください。

通勤途中に起こる腹痛・頭痛…心のもち方で治るもの?

〈Vol. 31〉 通勤途中に起こる腹痛・頭痛…心のもち方で治るもの?
人間関係を円滑にしてストレスによる体調不良を防ぐ

 極度の緊張やストレスで、腹痛・頭痛を起こすなど体調が悪くなった経験のある人もいるのでは。職場や学校で受けるさまざまなストレス。特に人間関係の悩みは大きなストレスになると言います。そんなときどうしたら良いのか、うえの医院院長・上野裕さんに伺いました。

 出勤途中に急に腹痛を感じ、駅やコンビニのトイレに駆け込んだり、ひどいときにはそのまま仕事を休んでしまう。また、仕事のことを考えると頭痛に襲われる、憂うつになる、寝付けない、などの仕事上のストレスが主因となる訴えは、日常的に見受けられます。
 日本の職場は「一定の時間内にできるだけ成果を上げなければならない」という観念にとらわれているため、勤務時間やノルマで信じられない過酷さを求められ、激しいストレスにさらされている人が実に多い。
 もし、ストレスを感じていて、上記のような状態が現れたならば、信頼できる人(理想は職場内)に悩みを打ち明けるのが一番です。

■ 敵意を持たず、感謝の言葉を
 しかし、仕事そのものより職場での人間関係ストレスに悩んでいる人(特に女性)が多いことも、厚労省の調査でわかってきました。その対処法を考えましょう。
 職場内でストレス因となっている人間との対処法として、(1)相手の良い面を探そうとするなどのポジティブ対処 (2)強いて無視する・相手の弱みを探すなどのネガティブ対処 (3)成り行きにまかせるなどの先送り対処の3通りがあります。
 (1)が最良なのは言うまでもありませんが、実行できない場合が多いのが実状です。結果、(3)を用いて職場生活を過ごす人が多くなります。そして、不本意なところはほかの要素で穴埋めし、何とか破たんなく職場生活を過ごしているのです。
 けれど、どうしても(2)の対処をしてしまう人もいます。敵意を刺激されやすい人です。相手との関係で自分が主導権を握りたいのに果たせない。そこに大きな葛藤が生じ、さらなるストレスがたまり、心身に不調が現れる。自分が敵意を持ちやすいと感じたら、日ごろから感謝の言葉をはっきり出すこと、「理想に合う人間が少なすぎる」などの愚痴はやめること、を心がけましょう。
 そのほか、心の専門医を訪れることもお勧めします。話し合いの中で、変化へのきっかけが見つかるかもしれません。

いつも追われている感じがする、休日も仕事が気になってしまう

〈Vol. 32〉 いつも追われている感じがする、休日も仕事が気になってしまう
時間的焦りを感じる“タイプA”の行動パターン

 休日には一日中ゴロゴロとしていたいのに、家の用事や仕事が気になってできない。そんなまじめさが、心と体に負担をかけることも…。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんが、最近多い質問から“時間的に焦りを感じる症状”について、説明をしてくれました。

 このところ、自分を「強迫神経症では?」と心配し、相談に来る方が少なくありません。例えば、

質問1.いつも追われている感じがして、ゆったりした気分になれず、絶えず何かをしていないと気がすまない
質問2.仕事のことが思い浮かんで、休日でも緊張が解けない

などです。
 以前にもこのコラムで書きましたが、“強迫”とは、大丈夫と確信していても万に一つの危険を恐れる気持ち(強迫観念)と、恐れを解消するための儀式的行動(強迫行為)の2つを特徴としています。戸締まりを何度も何度も確認する、何時間も手を洗う、すべての窓の枚数を数えないと気が済まないなど。これらは程度がひどければ強迫神経症と言えます。

■ 職場の過大なノルマに追われ…
 今回の質問1.2.に関しては“タイプA”が当てはまります。タイプAとは、1970年代に米国の2人の心臓病学者が、性格と虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の相関を考察したことがきっかけで生まれた医学的用語です。特徴は、常に時間に切迫感をもち、できるだけたくさんのことを成し遂げようとするために、いつも時間が足りないという焦りを抱いている。絶え間ない時間との戦いが、人生から楽しみを奪い、心身に緊張を強いるのです。
 質問1.の方は、タイプAそのものではないでしょうか。常に時間に追われている悩みです。特に心身に疲れがある時こそ、切迫感は強まり、疲労と切迫感に交互に襲われる悪循環が形成されてしまうのです。
 質問2.の方の背景には、職場での過大なノルマがあるようです。ノルマは常に勤務者を圧迫し、そのためタイプA的な心情が強まってしまうのだと考えます。どちらも心を十分にリラックスできない状態になっているだけで、強迫神経症には当たらないでしょう。
 心身をリラックスする方法としては、ヨガや気功法を行う、流水バスにつかる、自律訓練法を試みるなど。心の専門医に相談することもお勧めします。

気質により攻撃性が高まることも “苦手な人”と一緒にいるのが怖い

〈Vol. 33〉 気質により攻撃性が高まることも
“苦手な人”と一緒にいるのが怖い

 周囲に「苦手だなぁ」と感じる人はいますか? その人とはどう接していますか? 誰にでもある人間関係の悩みですが、ひどくなると心身に悪影響を及ぼすこともあるそう。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、特定者恐怖症とはどんなものかを伺いました。

 職場、学校、近所、母親仲間などの小社会に、特定の“苦手な人”が誰にでもいるでしょう。その人が近くにいるだけで嫌悪感に襲われ、ひどい場合には体の震え・吐き気・めまい・動悸・悪寒といった身体症状まで出現することもあります。さらには苦手な人への攻撃性が極端に高まって、傷害事件という悲劇を巻き起こすことさえある。特定者恐怖症とも呼べる状態ですが、なぜそうなるのか、理由と改善法を考えてみましょう。
 クロニンジャー博士のパーソナリティー形成理論によると、人には生物学的・遺伝的に、新寄性追求(心のアクセルと呼ばれる好奇心や衝動など)・損害回避(心のブレーキ。心配性や怖がり)・報酬依存(人情)の3つの気質があると言います。特定者への恐怖とは、特定の人から批判・非難・不快な態度を向けられたことへの過剰反応が激しい損害回避行動を誘発し、さらなる批判・非難・不快な態度を回避しようとする心の動きです。しかし、現実には特定者を完全に回避することはできないため、心に大きな不安と絶望が生じ、心身に恐怖症状が出現するのです。特に報酬依存気質が強いタイプは、他者を信頼したい気持ちがおう盛なので、症状は重くなりがちです。
 また、苦手な人への攻撃性が高まるのは、新寄性追求気質が強いタイプの場合です。このタイプは衝動的になりやすく、強い恐怖が異常な攻撃を誘発してしまう確率が高いと推定されます。

■ “鈍感力”も改善のカギに
 改善法としては、

1.じゃんけんの法則(=すべてに優位に立てるものはない)で社会は進む
2.悪い相性は人生の苦味料である
3.苦手な人は決して重要な他者ではない

の3つを心に刻んでください。医師・水島広子さんは「関係の改善よりも、相手の言動に鈍感になるべき」と言います。小泉前首相が“鈍感力”を強調したのも記憶に新しいところですね。それでも自分だけで改善できないことも多いと思うので、気軽に専門医に相談してください。

読書離れが人間関係にもたらす弊害とは?

〈Vol. 34〉 読書離れが人間関係にもたらす弊害とは?
コミュニケーションに必要な他人への橋、自分への橋

 会話やコミュニケーションは、あらゆる人間関係の基本ですね。でも、最近ではコミュニケーション力の低い人が増えているようです。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、コミュニケーション力を上げる方法について伺いました

 他者とのコミュニケーションについて考えたとき、1998年度国際児童図書協議会に向けた、皇后さまの講演内容(本にもなっています)が思い浮かびました。
 講演の主旨は、“自分と周囲との間にかけるべき橋がうまくかからないと、人は孤立をし、安定性を失ってしまう”ことと、そうならないためには“自分の根っこをもつこと”が必要だ、というものです。そして“根っこをもつ”ためには“読書が大切”だと、ご自分の思い出を中心に述べられています。
 豊かな文化の継承者としての自分を確立するため、そしてコミュニケーションを広げるために、良質な書物や言葉に接することが必要なのです。
 ところが現代の日本では、読書を愛する人々は減り続けています。結果、“根っこ”がしっかり育っていない人が増え、他者に相対するときに心が不安定になる悩みが多くなったのではないでしょうか。また、読書量の減少に伴い、言葉をぞんざいに扱う風潮も強まっています。言葉の美的側面や文化の象徴としての側面を忘れたせいで、社会に潤いが減り、余計に他者との関係=コミュニケーションを築きにくい世相になっているのです。

■ 心の不足を補おうとする姿勢が大切
 こうした社会に悩む人たちを、一朝一夕に変えることは難しいかもしれません。しかし、何かを始めなくては。
 皇后さまは前述の講演で、自分自身へ橋を架けることが大切だとも述べられています。自分自身に橋をかけるとは、品位を保とうとする心(自尊)と慈しみの心(親愛)を、高めることではないでしょうか。
 そして、心に不足するものを、自然の妙や、人類が遺してきた書物・音楽・美術などで補う。その姿勢が、個人・社会を変革して行くこと、コミュニケーション力を上げることのきっかけになると、私は考えます。
 コミュニケーションは身近な人とうまく行かない状態が続くと、不安や抑うつなどの神経症に陥る場合もあります。そうなる前に、専門医にご相談ください。

子どもの成長にも影響を与える「産後うつ症」とは

〈Vol. 35〉 わが子はかわいい、だからこそ守りたい―その思いが生む不安と抑うつ
子どもの成長にも影響を与える「産後うつ症」とは

 初めての妊娠・出産は、母親の心を多少なりとも不安にさせるもの。けれど、ある程度の期間を過ぎても不安感が消えない場合もあるようです。宇都宮市大寛町のうえの医院院長・上野裕さんに、新米ママが陥りやすい心の病について伺いました。

 母親の「わが子を守りたい、わが子は特別にかわいい」という気持ちは、妊娠中から徐々に育まれ、妊娠後期から出産後1カ月間では、ほとんど病的と言えるほどにまで高まります。そこから、分娩への危惧や出産後の発育に対する懸念が生じ、大部分の女性は多少の不安・抑うつを周産期に抱えるものです。
 しかし、出産を終えて数日を経過しても、不安や抑うつが軽快せず長引く場合は、「産後うつ症」と考えます。これは、気持ちの落ち込みや疲労感、イライラ感が産後数日間にだけ見られるマタニティー・ブルーとは、区別しなければなりません。
 一方、子どもは不快を感じたとき、安心を求めて母親に密着しようとする本能(愛着と言います)をもっています。ところが、うつ症の母親では、愛着に応えられず、子を安心させられない場面が多くなりがちです。それが度重なると、子も不安・抑うつ的に傾き、やがては心身両面での発育に問題が起こる可能性もあります。

■ 強迫神経症とも言える悩みも
 さて、産後うつ症は抑うつ(気力低下・倦怠感・憂うつ)が中心ですが、最近、特定の問題に関して不安が集中する「強迫神経症」とも呼ぶべき症状を訴える、育児中の女性からの相談が相次ぎました。
 例えば、「添い寝している子どもの呼吸状態が心配で、とても眠れない」「ガラス製ほ乳瓶が細かく割れ、破片を子どもに飲ませてしまうのではないか」などの訴えです。
 このような場合も広くは産後うつ症なのでしょうが、わが子を必死に守ろうとする母親の思いの強さ・深さのなせる技とも感じられ、私は「母親」という存在に頭が下がりました。
 抑うつ・強迫のどちらの場合でも、2つのことが大切です。一つは、周囲からの温かい援助。「育児は女の仕事」などは論外で、育児こそ男女共同参画を実践すべき時であると、私は考えます。もう一つは、心の専門医に相談することです。授乳中でも安心して服用できる薬剤もあります。

体の緊張と心の緊張が引き起こす「頭痛」について

〈Vol. 36〉 “頭痛持ち”の方、ストレスがたまっていませんか?
体の緊張と心の緊張が引き起こす「頭痛」について

 定期的に頭痛が起きる女性は多いもの。ただ、一度痛み出すと長く続く人、痛む前に兆候がある人など、さまざまですね。宇都宮市大寛町のうえの医院にも、頭痛で来院する人が多いようです。同院の院長・上野裕さんに、頭痛について教えて頂きました。

 頭痛にはさまざまな原因が考えられますが、外来を訪れる方の約7割は「緊張型頭痛」と呼ばれるタイプです。頭部・頸部周辺の筋緊張によって起こり、“締め付けられるような”痛みが、心身疲労時に多発します。一度発生すると、長く続く場合が多いようです。
 痛みは後頭部から側頭部にかけて両側性にみられ、肩こり・くびのこりを伴います。治療にはまず休養。さらに、消炎鎮痛剤の内服・塗布・湿布を行い、筋緊張が強ければ筋弛緩剤を使用し、心理面で不安・緊張があれば抗不安薬を加えることも必要です。また、ぬるめの湯にゆったり浸かるのも効果的です。ただし、強すぎる(あるいは不適切な所への)マッサージは、症状を悪化させる可能性があるので、ご注意ください。
 日常生活では1.くび・肩への負担を減らすよう、自分の体型に合った椅子・机・枕を専門家のアドバイスを参考にして選ぶ 2.精神的ストレス(心の緊張)をためないようにする 3.スポーツクラブなどで、後頭部筋肉の強化を図る などを心がけると良いでしょう。

■ 脈打つような痛みの片頭痛
 さて、しばしば見受けられる頭痛がもう一つあります。それは「片(へん)頭痛」です。典型的な症状は、数時間から数日間持続すること、吐き気・光や音に対する過敏を伴うこと、一側性の“ズキンズキンと脈打つような”痛みであること、などです。脳血管の過拡張が原因と考えられ、遺伝性があって、若い女性に発生することが多いようです。頭痛発生前に、視野欠損・視野黒点・四肢のしびれ感が生じる場合もあります。
 主な治療は、脳血管収縮作用をもつ薬剤によるもので、発作の予防にも使用できます。過量のアルコールやカフェイン摂取を避け、睡眠と休養を十分にとることも大切です。さらに、心理ストレスが痛みを誘発するという意見が多いのですが、私も同感です。
 このように、大きなストレスは体にも悪影響を及ぼします。体に異変が出る前に、専門医にご相談ください。

総入れ歯にしたのですが、よくかめません。友人も痛みなどの問題があると言っているのですが、より適した入れ歯はあるのでしょうか?

VOL.1
Q.総入れ歯にしたのですが、よくかめません。友人も痛みなどの問題があると言っているのですが、より適した入れ歯はあるのでしょうか?

A.歯ぐきに痛みが出る、はずれやすい、うまくかめないなど、入れ歯で困っている方は多いようです。古くは、アメリカ大統領のワシントンも、入れ歯がかみ合わないことが原因でいつも機嫌が悪く、演説も避けていたという話もあります。
粘弾性の強い材料と“咬める”人工歯
 現在はさまざまな新しい技術や製品が開発されています。その一つは、歯ぐきに触れる部分に使う粘弾性という特殊な性質を持つ材料。ある程度の軟らかさがあるので、強く咬んでも痛みが出にくく、歯ぐきにピッタリとなじむようになり、入れ歯がはずれにくいのが特徴です。大きく口を開けるたびにはずれてしまうこともなくなります。
 また、咀嚼(そしゃく)運動(咬むこと)に適合した総入れ歯用の人工歯も開発されています。これは本来あった歯の位置を再現することが可能で、見た目も自然になります。旅行などでも皆と同じものを食べることができますよ。
 以上のような新しい材料を用いることで、入れ歯治療も随分改良されて来ています。それでも、合わない、痛みが出る、という方は、インプラント(人工歯根)や義歯用マグネットを併用することで、入れ歯の安定をはかれます。これらは、まだ健康保険治療の適応ではありませんが、今ある悩みを解決し、以前のような楽しい毎日を過ごすというのも、選択の一つだと思います。

次回は「インプラントについて」です。

虫歯を放っておいたら、歯が使えなくなってしまい、抜歯しなくてはならなくなってしまいました。歯を失った後の治療は、どんな方法がありますか?

VOL.2
Q.虫歯を放っておいたら、歯が使えなくなってしまい、抜歯しなくてはならなくなってしまいました。歯を失った後の治療は、どんな方法がありますか?

A.たいがいの人は、「虫歯かな?」と思っても、痛くなければ歯科医を受診されません。歯が1本なくなることで、噛み合わせのバランスが悪くなり、虫歯、歯周病、顎関節症の原因となってしまうので、早めに受診することをお勧めします。
 さて、歯を失った後の治療法ですが、従来用いられてきた入れ歯とブリッジ、そして、インプラントに分かれます。

ブリッジ

入れ歯
 ブリッジは、人工歯を両隣の歯で固定する方法で、装着しても違和感がないのが特徴です。ただ、両隣の歯を削る必要があるため、歯の寿命は短くなってしまいます。
 また、抜けている歯が比較的多く、ブリッジで適応出来ない場合に有効なのが入れ歯です。健全な歯を削らずに補えるのですが、バネで固定するため違和感が多く、噛む力が3割~4割になってしまいます。そして、取り外して手入れをする必要があります。

次回は、両方の欠点を補った「インプラント治療」について、引き続き説明します。

(前回の質問) 歯を失った後の治療は、どんな方法がありますか?

VOL.3
Q.(前回の質問) 歯を失った後の治療は、どんな方法がありますか?

A.回答の続き「インプラント治療」について
 人間の歯は永久歯を失うと、残念ながら二度と生え替わってはきません。そのため、今までは「入れ歯」や「ブリッジ」が用いられてきました。しかし、「ブリッジ」は隣の歯を削るため、歯の寿命が短くなる。「入れ歯」だと、固いものがうまく噛めない、空気がもれて発音がおかしい。また、長く使っている間にガタついてきたりする場合があります。このように歯を失ってお悩みの方に適した治療法として「インプラント治療」ができました。
 インプラント治療とは、失ってしまった歯の代わりに人工の歯根を顎の骨に埋め込み、その上に人工の歯を固定する治療法。隣の歯を削ることなく治療ができ、自分の歯のように違和感なく噛めるようになります。最近では、骨幅や高さがないなど骨の条件がよくない場合も、GBR法(骨を増やす方法)などで適応範囲が広くなりました。ただ、全身の疾患がある場合には治療ができない場合があること、保険適用外で自由診療となることも理解しておいてください。
 毎日きちんと噛めることは食欲や健康にも良い影響を与えます。また、入れ歯装着時に見えていた針金がなくなれば、見た目が気になる方にもうれしいですよね。

前歯を差し歯にしたら、歯と歯ぐきの境目が黒くなってしまいました。これでは口を開いて笑えません。きれいにする方法はありますか?

VOL.4
Q.前歯を差し歯にしたら、歯と歯ぐきの境目が黒くなってしまいました。これでは口を開いて笑えません。きれいにする方法はありますか?

A.最近は歯を白くするなど、審美治療に関心のある患者さんが増えています。しかし、どんなに歯を白くしても、歯肉がきれいでなければ全体がきれいには見えません。
 今回のケースは、歯周病が原因で歯肉が下がり、またかぶせもの(差し歯)に使われている金属(銀)で歯が黒ずんでしまったと思われます。新しいかぶせものにするだけでも、ある程度歯の黒ずみは改善されますが、よりよく見せるには金属を使わないオールセラミックや、ハイブリッドセラミックのものに変える。神経を取ってしまった場合は、歯の土台(しんになる部分)から金属を使わない、もしくは金の含有率の多いものを使用すると良いでしょう。
 また、歯肉については、レーザー治療などで歯肉の形や色などを整える。その上でかぶせものの歯型を取れば、よりきれいに仕上がります。
 しかし、プラークコントロールが悪く、歯周ポケットが深くなってしまうと、これらの治療は難しく、かぶせものも長くはもちません。見た目が悪くて気にされている方は、相談されてみてはいかがですか。

部分入れ歯をしているのですが、バネをかけた歯が弱くなり、安定しなくなってきました。どうにか安定を良くしたいのですが…。

VOL.5
Q.部分入れ歯をしているのですが、バネをかけた歯が弱くなり、安定しなくなってきました。どうにか安定を良くしたいのですが…。

A.部分入れ歯は、隣の歯に針金でできたバネで固定します。そのため、固定している歯を痛めやすいのが現状です。バネをかけている歯が欠けた場合、力のバランスが崩れてしまいます。それで、入れ歯の安定が悪くなってしまうのです。
 こういった場合の治療法はいくつかあります。まず、残っている歯に小型のマグネットを取り付ける方法。歯と入れ歯に磁石をつけることで吸着が良くなり、がたつきも少なくなります。
 次に、茶筒の原理を応用した、コーヌスクローネ法があります。これは残っている歯にかぶせ物をしてつなぐ方法です。一本一本の歯に2重冠の金冠を装着し、上の部分の金冠をつないだかぶせ物全体を、はめたり外したりできます。残っている歯が少ない場合は、入れ歯部分を直接つないでコンパクトにすることができます。写真は2つを併用した治療法です。
 残る1つはインプラントです。この方法は応用範囲が広く、前記の2つと組み合わせることもできます。歯の負担も減り、入れ歯も安定します。針金がかかっていれば審美的にも良くないので、気にされている方は、相談してみてください。

最近、「自由診療」という言葉をよく聞きますが、どんな治療のことを言うのでしょうか? また「保険診療」とどう違うのでしょうか?

VOL.6
Q.最近、「自由診療」という言葉をよく聞きますが、どんな治療のことを言うのでしょうか? また「保険診療」とどう違うのでしょうか?

A.歯科治療は、医療保険請求ができる「保険診療」と、医療保険適応外の「自由診療」や「自費診療」と言われる治療に分かれます。
 「保険診療」は病気の治療を目的としたもので、予防や審美などには原則的に適応されず、国によって決められた診療内容に限られています。歯科では、虫歯や歯周病の治療、抜けた歯を補うブリッジや義歯の製作などが主な治療項目ですが、使用する材料や治療法に制限が設けられています。
最善の治療法を選べる 「自由診療」
 一方、「自由診療」には制限がありません。このコラムでも何度か書きましたが、最近は「悪いところを治す」だけでなく、「歯を美しく見せたい」や「快適にしたい」など、歯の健康と美容について考える人が増えています。「自由診療」は、患者さん自身が望む治療を、同意の上で、医師が持つ最高の技術と最新の設備を用いて行う治療であると言えるでしょう。
 治療項目は次の通り。

1) 歯並び・かみ合わせの矯正治療
2) 人工歯根(インプラント)
3) 入れ歯と分かりにくい義歯や、金属床や粘弾性材料を用いた義歯
4) セラミック・金合金の詰め物やかぶせ物
5) 口や歯の健康診断
6) 歯のホワイトニングやクリーニング
7) レーザー治療

詳しいことは専門医に相談して、それぞれに合った治療法を選んでください。

歯周病がひどいため、総入れ歯を勧められました。すべての歯を抜いてしまうことに抵抗があるのですが、自分の歯を残して治療する方法はありませんか。

VOL.7
Q.歯周病がひどいため、総入れ歯を勧められました。すべての歯を抜いてしまうことに抵抗があるのですが、自分の歯を残して治療する方法はありませんか。

A.歯周病は、気付かないうちに進行してしまっている例が少なくありません。しかし、重度の歯周病で歯がグラグラになってしまった場合でも、抜かずにかぶせ物をして治療する方法があります。大まかには3つ。
 1つは、フルブリッジ法。単独ではグラグラしてかめない歯と歯を冠でつなぐ固定式のかぶせ物で、歯が比較的多く残っている場合に適用します。
 2つめのコーヌスクローネ法は、支えとなる歯に内冠をつけ、義歯のついた外冠を重ねてつける治療法です。外冠と義歯床が一体化しているため、支えている歯に負担が少なく、装着感がいいのが特長です。取り外し式で清掃もしやすく、針金がないので審美的にも優れています。
 3つめは、インプラント法。人工歯根をあごの骨に埋め込み、その上に人工の歯を作製して、かみ合わせを回復する方法です。固定式のため、ガタついたりせず、自分の歯のようにかめるようになります。
インプラントとブリッジを併用した治療法。 術前(左)と術後(右)
 歯の状態や患者さんの考え方により、治療法は変わります。医師と相談して“快適にかめる”治療法を選んでください。

右の奥歯を失い、不自由がないので放っておいたのですが、最近かみ合わせが変わってきたような気がします。治療した方がいいでしょうか。

VOL.8
Q.右の奥歯を失い、不自由がないので放っておいたのですが、最近かみ合わせが変わってきたような気がします。治療した方がいいでしょうか。

A.治療することをお勧めします。歯は、1本でもなくなればかみ合わせがずれてしまい、それが崩壊への第一歩となってしまいます。
 今回の場合は、奥歯がないため、ブリッジにはできません。治療の選択肢は針金付きの入れ歯と、針金のない入れ歯テレスコープデンチャー、インプラントの3つ。針金付きの入れ歯は、健全な歯を削らずに補えますが、違和感が多く、噛む力が3割~4割になってしまいます。そこで、今回はテレスコープデンチャーを紹介します。
 まず、鉤歯(こうし=支えとなる歯)を削り、かぶせものにアタッチメント(入れ歯をつなげる装置)を付けます。アタッチメントは、入れ歯に使われる針金とは違い、支えている歯に負担をかけずに入れ歯をつなぐことができます。噛んだときのがたつきが少なく、見た目も入れ歯とはわかりにくくきれいになります。この治療法は自由診療となり、設計は歯の本数や状態によって変わるので、医師にご相談ください。
テレスコープデンチャーの装着前(左)と装着後(右)
 次回は、インプラントで治療した場合を説明します。

(前回の質問) 右の奥歯を失ったまま放っておいたら、かみ合わせが変わってしまいました。治療したほうがいいでしょうか。

VOL.9
Q.(前回の質問) 右の奥歯を失ったまま放っておいたら、かみ合わせが変わってしまいました。治療したほうがいいでしょうか。
回答の続き 「インプラントで治療した場合」

A.今回はインプラント治療について説明します。大きく違う点は、インプラントは固定式のため、着脱のわずらわしさがないこと。また、前回説明したテレスコープデンチャーは、鉤歯(こうし)となる歯を削らなくてはならないという欠点がありますが、インプラント治療では、ほかの歯を削らなくてすむことも大きなメリットです。
 インプラント治療は顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を固定する方法で、手術が必要なため、診断が重要となります。CTで骨密度と骨幅などを検査し、条件が整えば手術をします。最近では多少条件が悪くても、骨移植などの方法があるので、医師とよく相談してください。
 手術後、上顎は約5~6カ月、下顎は約3~4カ月、骨とインプラントが結合されるまで待ちます。その後、かぶせものの歯形をとり、装着して完成となります。この治療法も自由診療です。
 治療後に必ず守ってほしいのが、メンテナンスです。医師の指導に従い、正しい歯磨きなどの適切なホームケアと、半年に一度の定期検診を行ってください。
インプラントの治療前(左)と治療後(右)

以前に治療した歯がまた虫歯になってしまいました。その歯は虫歯になりやすい歯なのでしょうか。再発しないような方法はありますか。

VOL.10
Q.以前に治療した歯がまた虫歯になってしまいました。その歯は虫歯になりやすい歯なのでしょうか。再発しないような方法はありますか。

A.日本はアメリカやヨーロッパに比べて、再治療をする患者さんは多いようです。大半の人は虫歯や歯周病にかかったことに気付かず、痛みが出てから歯科医院を訪れます。なぜ再び、虫歯や歯周病になってしまったかを考えてみましょう。
 それは口の中にいるばい菌が感染したことが原因です。ばい菌が多ければ多いほど、虫歯や歯周病にかかる率は高くなります。
歯垢コントロールとメンテナンス
 では、具体的にどうすればよいか。まずは、プラークコントロールをきちんと行うことです。毎日歯磨きをしていても、“やっている”のと“できている”のは違います。歯科医師、歯科衛生士にブラッシング方法などのホームケアを教わってください。それでも、歯と歯の間や歯ブラシが届きにくい場所など、自分自身で磨くだけではどうしても限界があるので、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)を行って、ばい菌(バイオフィルム)を除去します。
 もう一つ重要なのは、車に車検があるように、歯にもメンテナンス(定期検診)が必要だということ。期間は口の中の状態によって変わりますが、3~6カ月を目安にしてください。
 これらのことを行うことで、再治療・再発を防ぐことができます。“痛くなってから治療する”という考え方を“痛くならないように予防する”に変えてみませんか。

前歯に虫歯があり、見た目が気になります。歯周病も進んでいると言われたのですが、治療をしながら見た目もきれいにすることはできますか?

VOL.11
Q.前歯に虫歯があり、見た目が気になります。歯周病も進んでいると言われたのですが、治療をしながら見た目もきれいにすることはできますか?

A.女性の理想の体型を表す言葉として最近よく使われる蕫ゴールデンプロポーション﨟(黄金比率)ですが、歯の形にも同じ表現を使います。歯周病の治療をしていくと歯肉がひきしまり、今まであった位置より歯肉は短くなります。これは正常なことなのですが、歯が長くなったように見えて、見た目が悪くなってしまいます。歯を保存するためには、仕方がないのですが、やはり気になる方も多いようです。
見た目が気になる前歯(左)も歯周補てつ法できれいに(右)
機能的で審美的なかぶせもので治療
 審美的に変えるには、かぶせものをして歯の形を変えることで改善する方法があります。以前「総入れ歯を勧められたが、自分の歯を残したい」という歯周病でお悩みの方に3つの歯周補てつ法(フルブリッジ法、コーヌスクローネ法、インプラント)を紹介した回で説明しましたが、歯周病の歯は一本一本が弱いので、複数の歯を固定する必要がでてきます。審美と合わせて治療もできますので、歯周病がひどくなる前にきちんと治療することをお勧めします。

最近総入れ歯にしたのですが、顔つきが悪くなったと言われました。付ける入れ歯によって、顔つきまで変わってしまうものですか?

VOL.12
Q.最近総入れ歯にしたのですが、顔つきが悪くなったと言われました。付ける入れ歯によって、顔つきまで変わってしまうものですか?

A.歯の正しい形状と歯並びは、生体力学的に眉間を中心とした円を描いています。自然で美しい顔の表情は、この法則に沿った歯並びやかみ合わせから生まれます。
 では、なぜ顔つきが変わってしまったのか。原因に考えられるのが、前歯の歯並びや奥歯のかみ合わせが悪い場合、もしくは入れ歯の吸着が悪い場合です。歯並びやかみ合わせが悪いと、咀嚼(そしゃく)筋の働きとの調和が崩れ、不自然な表情の要因となります。また、歯の吸着が悪いと、不必要な筋の緊張が生まれ、表情までぎこちなくなってしまいます。
 新しい治療法として注目されているのが、かみ合わせ治療器「ジータ咬合器」(米国特許取得)や、咀嚼運動に調和した総入れ歯用の人工歯「ジータアート人工臼歯」(特許出願中)、口腔粘膜の性質に近い粘弾性を持つ入れ歯材料「フィジオライナー」です。今は最新の技術や材料を用いた治療法が開発されているので、見た目が美しく、自然にかめる入れ歯を選んで、悩みを解消してください。
ジータアート人工臼歯で並べると、こんなにきれいなかみ合わせに

歯のホワイトニングに興味があります。どのような方法があるか教えてください。

VOL.13
Q.歯のホワイトニングに興味があります。どのような方法があるか教えてください。

A.歯の変色が気になり、ホワイトニングをしたいという方が増えていますが、変色にはさまざまな原因があります。生まれつき変色している内因性のテトラサイクリン歯。神経を抜いて変色した歯、日々の歯磨きで取り残した歯の汚れや茶しぶなどによる外因性のもの。歯の状態によっても治療法は変わります。

歯の状態で違う4つの治療法
 虫歯がなく、削らずに歯を白くするには、ホワイトニング(漂白)が適しています。歯科医院で短期間に行えるオフィスブリーチでは、歯の表面にペーストを塗り、数分間レーザーを照射。ホームブリーチでは、歯科医院で歯型を取ってトレーを作り、トレーに薬剤を流したものを歯に合わせて入れる治療を数週間続けます。睡眠時など、空いている時間にできるのが特長です。ただし、どちらも永久的に白い歯が続くわけではありませんので、定期的なメンテナンスが必要です。
 内因性の変色や隙間だらけの歯には、ラミネートベニア法が有効です。歯の表面をごく薄く削り、セラミックを貼り付けるだけの治療法で、セラミックの形や大きさを調整することで、歯並びや歯の形を整えることもできます。虫歯の進行がひどい場合や歯並びが悪い場合は、セラミッククラウンなどのかぶせもので歯全体の色を変える治療を行います。  これらは自由診療となっているので、歯科医に相談の上、治療を受けてください。

インプラント治療を考えていますが、仕事をしているため治療期間と治療中の歯の状態が気になります。詳しく教えてください。

VOL.14
Q.インプラント治療を考えていますが、仕事をしているため治療期間と治療中の歯の状態が気になります。詳しく教えてください。

A.インプラントは、咬み心地も見た目も“第2の永久歯”と言われるほど自然な仕上がりになる治療法です。治療の流れを説明しましょう。

1) 診査・診断 診察やレントゲン撮影、全身の既往歴、骨の量などをチェック
2) インプラント埋入前の処置 口の中全体の衛生状態を整えるために、全般的な歯科治療を行う
3) インプラント埋入手術 インプラントを埋める部分の歯肉を開いて、あごの骨にインプラントを埋め込み、歯ぐきを縫い合わせる
4) 治癒期間 インプラントが骨内でしっかり結合されるまで、治癒期間を設ける
5) インプラントの頭出し手術 インプラントのヘッド部分を露出させ、人工の歯を製作
6) 上部構造製作 口の中の型を取り、接続する人工歯を製作。出来上がり次第、人工歯をインプラントに装着
7) メンテナンス インプラントを長持ちさせるには、正しい手入れと、半年~1年ごとに定期検診を行ってください

 治療期間は、骨の状態や処置の仕方、本数によって異なります。一般的には(1)(2)で1カ月~6カ月、(3)(4)が上あご5カ月~6カ月、下あご3カ月~4カ月、(5)(6)が2週間~2カ月となります。手術も、健康な方であれば入院の必要はありません。また、治療中は必要に応じて仮歯を入れますので、日常生活や仕事に差し支えることはありません。わからないことは歯科医に説明を受けて、治療を始めてください。

歯を磨くと出血するようになってしまいました。鏡で見てみたら歯ぐきが赤く腫れています。歯周病なのでしょうか。

VOL.15
Q.歯を磨くと出血するようになってしまいました。鏡で見てみたら歯ぐきが赤く腫れています。歯周病なのでしょうか。

A.歯周病が疑われますので、早めに歯科医を受診することをお勧めします。プラーク(歯垢)が原因で進行する歯周病は、放っておくと知らない間にジワリジワリと歯の周囲の骨を溶かし、ついにはすべての歯が抜けてしまう病気です。
 治療は、ただ来院すればいいというものではなく、患者さん本人の認識と努力が重要です。そこで、歯周病を克服する4つのキーワードを紹介します。

【知る】 歯周病は、歯周ポケット(歯と歯ぐきの間)に入った細菌が引き起こす病気です。まずは、患者さん自身が、歯周病のメカニズムについてよく知ることが大切です。
【見る】 歯周病の原因であるプラークを歯ブラシで落とすには、どこにプラークがつきやすいかを自分の目で見ることから始まります。
【取る】 正しいブラッシングによって、歯周ポケット内のプラークを徹底的に取ることが歯周病治療の基本となります。何度も練習して、ブラッシングのテクニックを身につけることが歯周病克服への最短の道となります。
【来る】 歯周病は1回の来院で治る病気ではありません。長年の間に進行した慢性的な病気なので、根気よく治療を続け、治療後も長期にわたり定期的な診査、診断を受けることが大切です。

 これらの4つを十分理解した上で治療を行えば、結果はゆっくりですが確実に表れます。歯科医とともに、根気よく歯周病を克服しましょう。

ひどい歯周病で、骨の状態も悪いと言われました。インプラント治療はできますか?

VOL.16
Q.ひどい歯周病で、骨の状態も悪いと言われました。インプラント治療はできますか?

A.インプラント治療は、人工歯根を顎(あご)の骨に埋め込み、その上に人工歯を固定する治療法のため、まずはレントゲンやCTなどで、骨の量や状態を調べる必要があります。以前は、歯槽骨(歯を支える骨)の不足など、骨の状態が悪い場合はインプラント治療は不可能と言われていました。しかし現在は、骨の移植や再生など、さまざまな方法でインプラント治療できる環境を作れるようになりました。
 その一つは、GBR法(骨移植、骨再生)。歯がなくなると歯槽骨が減り、インプラントを埋め込んでも表面が露出してしまいます。そのため、骨組織を再生させたい部分を専用膜で覆い、歯肉をかぶせて、数カ月間、骨の再生を待ちます。
 また、上顎部に歯槽骨の骨量が少なく、インプラントを埋める高さが足りない場合でも、鼻の空洞を押し上げて高さを確保するサイナスリフト法や、ソケットリフト法で治療することができます。期間はかかりますが、インプラント治療は可能なので、歯科医に相談してください。
GBR法で骨の条件を整えたインプラント治療(左は治療前、右が治療後)

生まれつき歯の本数が足りず、見た目がよくないのでずっと気になっていました。治療をしたいのですが、どんな治療法がありますか?

VOL.17
Q.生まれつき歯の本数が足りず、見た目がよくないのでずっと気になっていました。治療をしたいのですが、どんな治療法がありますか?

A.みなさんは歯の数が何本あるか知っていますか。人の歯は乳歯で20本、永久歯で28本(親知らずを除く)。生まれつきあるべき歯がないことを、先天性欠如歯といいます。たいてい1本~2本足りない場合が多いのですが、かみ合わせが悪くなったり、ほかの歯の位置がずれてしまうなどの影響が考えられるため、治療を勧めています。治療法は3つです。
 まずは「ブリッジ」。固定式の人工歯を入れる方法ですが、固定するには健康な両隣の歯を削らなくてはなりません。
 2つめは「入れ歯」。健康な歯を削らずに治療できますが、バネで固定するため違和感があり、かむ力は弱くなります。また、取り外して手入れする必要があります。
 3つめの「インプラント」は、人工歯根をあごの骨に埋めて、人工歯を固定する方法。これもほかの歯を削らずに治療でき、自分の歯のようにかむことができる上、見た目もきれいに改善されます。それぞれの良さを理解の上で、最善の治療法を選んでください。
インプラントで欠如している歯を治療(左は治療前、右が治療後)

歯周病が原因で、心臓病や脳梗塞(こうそく)に影響があると聞いたのですが、本当でしょうか?

VOL.18
Q.歯周病が原因で、心臓病や脳梗塞(こうそく)に影響があると聞いたのですが、本当でしょうか?

A.テレビなどでも聞きなじみのある歯周病は、「歯ぐきから血が出る病気でしょ?」と軽く考えてしまう人が多いようです。しかし実は、歯周病は歯が抜け落ちるだけでなく、全身にさまざまな悪影響を与えることがわかってきました。
 以前に、歯周病は歯周ポケットに入った細菌が引き起こす病気だと説明しました。その細菌が毛細血管から全身の血管に入り、命にかかわる重大な病気の原因となる場合があります。頭痛、けん怠感などの全身の不調、心筋梗塞、狭心症、脳血栓、脳梗塞などです。
 歯周炎菌の一部は悪玉コレステロールを血管壁に付着させる可能性があり、このため血栓ができて、動脈硬化が進行。この血栓が心臓の冠状動脈に起きると、心筋梗塞などにつながります。心筋梗塞で亡くなった方の血液内の血栓を調べたところ、歯周炎菌が発見されたという報告が数多く寄せられています。
歯周炎菌は女性の敵でもある
 それだけではありません。歯周炎菌は月経時や妊娠時に分泌されるエストロゲンという女性ホルモンを栄養にして、体内で増え続け、女性の体に悪影響を与えます。特に歯周炎の女性が妊娠した場合は、歯ぐきの健康な人に比べて、未熟児出産や早産となる確率が高まるとも言われています。
 日ごろから歯肉や歯の状態をチェックし、健康な状態でかめるように、早い段階での治療をお勧めします。

毎日歯を磨いているのに、歯が痛むようになりました。これって虫歯ですか?

VOL.19
Q.毎日歯を磨いているのに、歯が痛むようになりました。これって虫歯ですか?

A.前回、歯周病は全身疾患の原因となると書きましたが、虫歯も同じで、ひどくなると根の周囲に膿が溜まり、敗血症の引き金となることもあります。そうなる前に、虫歯のメカニズムを知り、きちんと予防、そして治療することが大切です。
 虫歯の主な原因菌であるミュータンス菌は、口の中に住む細菌の一つで、食べ物の中の砂糖を栄養にして、歯の表面にネバネバしたものを作り出します。そこに細菌が入り込み、増えていったものが歯垢(プラーク)です。さらに歯垢の中で食べ物の糖質が分解されて酸を作り、歯の表面を覆うエナメル質を溶かし始める。これが虫歯です。
早期発見で痛みなく治療できる
 虫歯のレベルはC1~C4に分かれます。C1はエナメル質に小さな穴が開いた状態で、自分では見つけにくいのですが、定期検診をしていれば発見でき、痛みもなく治療できます。C2はしみる程度。この時点なら神経を取らずに治療できます。はげしく痛むのがC3。神経を取らなくてはなりません。C4になると、歯の上部はなくなり、腐った根だけが残った状態で、歯を抜かなければなりません。根の周囲にたまった膿により口臭もひどくなります。
 毎日歯を磨いているのに虫歯になるのは、歯垢を落とせていないからだと思われます。予防のためにも、歯科医院で定期検診を受け、きちんと歯垢を落とすブラッシング法を教わってください。

歯の形が気になるのですが、何か良い治療法はありますか?

VOL.20
Q.歯の形が気になるのですが、何か良い治療法はありますか?

A.歯が欠けてしまったり、前歯2本の大きさが違うなど、歯の形を気にする方が多いようです。
 歯の形や歯並びを変えるには、いくつか選択肢があります。その一つ「矯正」では、歯の表面に金具をつけてワイヤーでつなぎ、少しずつ歯並びを直していきます。治療には2年~3年という期間がかかります。
 短期間で治療したいという方には、自分の歯をなるべく削らないで違う形に変えられる「ラミネートベニア法」を勧めています。歯の表面をごく薄く削り、シェルと呼ばれるセラミックを貼り付けるだけの治療法で、歯の形だけでなく、色やすき間が気になる方にも適しています。シェルの材質には摩耗や変色のないポーセレンがいいでしょう。2回の通院で治療が終了します。
 また、歯の全周を削り、かぶせものをして形を変える治療法も、短期間で治療が終わります。
 歯の形や歯並びで望むことは人それぞれです。十分な診査・診断・コンサルテーション(相談)を受け、満足できる治療を選んでください。
短期間の治療で、歯の形がきれいに

歯のかみ合わせが原因で、肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

VOL.21
Q.歯のかみ合わせが原因で、肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

A.審美歯科、美容歯科という言葉が一般的になり、「歯を美しくする」という意識が高まっているようです。しかし、かみ合わせを考えずに、見た目だけを治すと危険な結果になる、ということはあまり知られていないのではないでしょうか。
 歯は全部そろって初めて正常に機能する仕組みになっています。1本でも抜けてしまうと、抜けた歯の隣近所の歯がなくなってしまった部分を補おうとするため、歯並びはガタガタになってしまいます。そしてかみ合わせの狂いは、100分の1ミリで全身に影響が出始めます。歯の治療をしてから、顎(あご)が痛くなる、口が開かない、胃がもたれる、動悸、肩こりや頭痛がする、といった症状は、かみ合わせの狂いが頭がい骨や顔の骨を変形させたことが原因と考えられます。ほかにも、右表のような状態の方は注意が必要です。
 まずは、虫歯や歯周病の治療をきちんと受けることが大切です。かみ合わせ治療については、引き続き次回説明します。
こんな状態は要注意!
 ・ 1本でも抜けたままの歯がある
 ・ 上下のかみ合わせが悪い(出っ歯・受け口など)
 ・ 歯並びが悪い(八重歯・デコボコの歯など)
 ・ 親知らずが不正な方向に生えてきた
 ・ グラグラする歯がある
 ・ 治療していない虫歯がある
 ・ 義歯や詰め物を入れている
 ・ 水を含むと歯の付け根がしみて痛い

(前回の質問) 歯のかみ合わせが原因で肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

VOL.22
Q.(前回の質問) 歯のかみ合わせが原因で肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

A.前回、かみ合わせを考えずに見た目だけを治す治療で、全身のバランスが崩れ、さまざまな病気の原因になるということを書きました。そこで今注目されているのが、かみ合わせ治療です。
 まずは奥歯をしっかりとかめるように、奥歯と前歯、そして左右の高さのバランスを、かぶせ物などで調整します。その後、前歯のバランスを調整します。高い技術を必要とする治療ですが、治療後は顔の筋肉のバランスが取れて、きれいなラインになり、口元が美しく見えます。
 また、きちんとかめるように治療することで、さまざまな体の不調を取り除くだけでなく、肥満防止や生活習慣病の予防、消化を助ける、脳が活発になる、味覚が発達する、老化防止、集中力アップ、言葉をきちんと発音できるなど、体全体によいことをもたらします。
機能的に快適で、かつ見た目もよいというのが、これからのかみ合わせ治療の流れだと考えます。
バランスのとれた美しい歯に(左が治療前、右が治療後)

(前回の質問)歯のかみ合わせが原因で肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

VOL.23
Q.(前回の質問)歯のかみ合わせが原因で肩こりや頭痛が起きているのではないかと言われたのですが…。

A.2回続けて説明をしてきましたが、かみ合わせの重要性を理解していただけたでしょうか。
 今回は実際にかみ合わせが悪く、全身症状が出てしまった患者さんの例をお見せします。写真1はかみ合わせ治療前です。奥歯の治療をしてから、肩こりや背中の痛み、あごが痛くてかめないなどの不調があったと言います。人により、頭痛や吐き気などを訴える場合もあります。そこでかぶせものを変えて、上下のあごが生理的な位置でかみ合わせできるようにジータシステムで治療しました(写真2)。スポーツ選手であるこの患者さんは、かみ合わせ治療後に不調が解消し、成績も上がったそうです。

1. 治療前
奥歯のかみ合わせに違和感を感じ、肩こりや背中のハリ、あごの痛みが続いている状態

2. 治療後
ジータシステムでかぶせものを調整。理想的なかみ合わせであごの痛みもなくなった

- 最終回 - 美しい笑顔とかみ合わせで健やかな毎日を!

VOL.24
- 最終回 -
美しい笑顔とかみ合わせで健やかな毎日を!

 2年間にわたり、歯の美容と健康についてお話してきましたが、今回で最終回となります。それぞれの悩みを伺ってみると、みなさんが望んでいるのは、自信を持って人と接することができるきれいなスマイルラインと、食べ物をおいしく味わえるかみ合わせではないかと感じました。
 さまざまな治療法を紹介してきた中で、その両面を満足させる治療法がインプラントと言えるでしょう。人工歯根を埋め込み、人工歯を固定するので、長期安定できるかみ合わせとなり、審美的にも白く美しい歯を手に入れることができます。
 これからも健やかな毎日を送るために、歯の悩みやコンプレックスは早めに歯科医に相談してみてはいかがですか。(終)

● インプラント治療例 ●
1. 入れ歯(左)からインプラント(右)への治療。金具もなくなり、審美的にも美しくなっています

2. 奥歯のない状態(左)からインプラント(右)の治療。自分の歯と同じようにかむ力がアップ

学校検尿で糖尿病が発見

〈Vol. 11〉 学校検尿で糖尿病が発見
 学校検尿で糖尿病が発見されます。多くは II 型糖尿病で肥満の子どもが多いです。尿糖が強陽性の子どもは直ちに医療機関を受診してください。

 学校検尿は、昭和49年より早期の慢性腎不全を発見する目的で施行されてきました。近年の飽食と食事の洋風化の時代になって、肥満児が多くなり、それにしたがって II 型糖尿病(非インスリン依存性糖尿病)が増加するようになりました。そのため、早期の糖尿病を発見する目的で、学校検尿で尿蛋白以外に尿糖の検査も昭和54年から義務づけられるようになりました。糖尿病も末期には腎臓病が合併してきて、腎不全になります。今や国民病となっています。成人では6人に1人が糖尿病、あるいは予備軍です。
 糖尿病以外に尿糖の陽性になる多くの場合は、検尿の前後に、甘いものの食べ過ぎやジュースの飲み過ぎによるものと、腎性糖尿です。この二つとも治療の対象にはなりません。
 糖尿病は2種類あります。 I 型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)はやせた子で、急速に症状が出現してきます。すなわち、突然口渇・多飲・多尿がみられ、そのままにしておくと昏睡をおこしてきます。この病気は、血糖をコントロールしているインスリンの産生が著しく低下しておきるもので、インスリンの補充のために毎日血糖の検査と、インスリン注射をしなければなりません。そのため学校でも注射をしなければならず、担任教師がクラスの子に病気の説明を十分にして理解させないと、いじめの対象となり、不登校になります。
 もう一つは、学校検尿で発見されることが多い II 型糖尿病です。発症はゆるやかで、肥満の人に多いです。治療の基本は食事療法と運動療法ですが、一時的にインスリンが枯渇して、インスリン注射を使用することがあります。家族にも肥満の人や II 型糖尿病の人がいることが多く、一緒に治療する必要があります。
 中学校1年生の女子です。4月の学校検尿で尿糖(2+)、5月の二次検尿で尿糖(4+)と悪化し、体重も80kgと肥満でしたが、多飲・多尿が出現し、体重は60kgに減少しました。病院の検査では血糖は空腹時で、256mg/デシリットルと異常高値でした。尿ケトンは(-)でした。もう1~2カ月発見が遅れていたら、昏睡になっていたかもしれません。
 学校検尿で早期に発見されたケースですが、口渇・多飲・多尿・体重減少がみられましたら、その時点で病院へ行きましょう。糖尿病は、恐ろしい国民病です。くれぐれも肥満に注意しましょう。

副腎皮質ホルモン剤の副作用について

〈Vol. 12〉 副腎皮質ホルモン剤の副作用について
 ネフローゼ症候群・膜性増殖性腎炎の腎疾患、気管支喘息、膠原病の時に使用される副腎皮質ホルモン剤の副作用について述べます。

 副腎皮質ホルモン剤(主としてプレドニンが使用される)は、先に述べた疾患の特効薬です。劇的に効く薬剤ですが、たくさんの副作用もある薬ですので、その副作用について知っておかなければなりません。一度使用するとなかなか中止できないことがあり、依存性となり重篤な副作用が生じてきます。
 外見上だれもがわかるのは顔が満月様になる満月様顔貌、肥満、多毛、ニキビです。これらは医学的には重篤な副作用でありませんが、思春期の女の子にとっては精神的に耐えきれない副作用です。周囲の者はそのことに配慮してあげる必要があります。子どもでは身長の伸びも抑制されます。骨ももろくなり、時には骨折(主として背骨がつぶされます)も起きます。眼にも緑内障、白内障が起きてきますので、眼科に定期的に検査してもらいます。一番恐ろしいのは、嘔吐するような病気になって、プレドニンが急に服用できなくなった時です。急性副腎不全となり、発熱・ショック状態となります。そのようになる前に、服薬できなくなったら、注射してもらいに病院を受診することです。子どもには少ないですが、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、腎・尿路結石なども起きることがあります。さらに、精神的に落ち着きがなくなり、イライラしたり、発作的な行動を起こすことがあります。
 12歳の男の子です。ネフローゼ症候群でプレドニンを使うとよくなりますが、減量・中止しようとするとまた尿蛋白が出現して、再発をくり返していました。そのため、プレドニンを長期に大量服用せざるをえなくなっていました。腰痛を訴えたため、背骨のレントゲン写真をとりましたところ、骨折がありました。またMRI検査で硬膜外脂肪腫症(脊髄を増殖した脂肪組織が圧迫している状態)もありました。免疫抑制剤のシクロスポリンを多目に使用しましたところ、プレドニンは幸いにも中止でき、腰痛も消失し、骨折と硬膜外脂肪腫症も改善しました。シクロスポリンも腎障害という重篤な副作用がありますので、短期間で通常量に戻しました。
 副腎皮質ホルモン剤(主としてプレドニン)はいろいろな難治性疾患の特効薬として使用され、劇的効果があります。しかし、たくさんの副作用があるので、副作用をチェックしながら使用します。早めに中止したい薬ですが、中止できないのが実状です。何か疑問点がある時には、遠慮なく主治医に薬の副作用ではないかと質問してください。

赤ちゃんの発熱

〈Vol. 13〉 赤ちゃんの発熱
 赤ちゃんの発熱の多くは、風邪か中耳炎か尿路感染症です。赤ちゃんの発熱のときには必ず中耳炎の有無と検尿をしてもらいましょう。

 赤ちゃんが熱をだす原因はたくさんあります。多くは風邪のことが多いですが、咳・鼻汁がなく、咽頭(のど)も赤くなく、胸の聴診でも異常がないときには、中耳炎か尿路感染症を考えます。
 中耳炎は耳鏡で簡単にわかります。尿路感染症は尿の検査をしないとわかりませんが、今は試験紙法で一滴の尿である程度診断できます。おむつにした尿に試験紙をあてたり、男の子ならおちんちんの先の1滴で大丈夫です。尿路感染症ですと、試験紙の白血球の項目が陽性(1+~3+)となり、また細菌尿の証拠となる亜硝酸が陽性(1+~3+)となります。陽性となりましたら、血液検査をして、白血球数が異常に増加していたり、炎症反応をみるCRPが強陽性のときには、入院治療が必要です。抗生物質で治療する前に、ちゃんとした尿検査と尿の細菌培養をして、原因となる菌を同定して、それに効果のある抗生物質を使用します。
 多くは大腸菌が原因菌です。尿路感染症と診断されましたら、腎臓と膀胱の超音波検査をして、奇形や膀胱尿管逆流の有無を調べます。異常があればもちろんですが、異常がみつからなくても、赤ちゃんの尿路感染症では膀胱に造影剤をいれて(危険はありません)、きちんと膀胱尿管逆流があるかどうか調べておく必要があります。その程度がひどいときには、手術が必要です。
 生後3カ月の男の赤ちゃんです。急に高熱をだし、元気がなくなり、嘔吐して、ミルクを受けつけなくなりましたので、救急外来を受診しました。風邪の症状はありませんでした。試験紙で検尿したところ、白血球は(3+)、亜硝酸塩も(3+)でした。血液検査では白血球数とCRPの著明な増加がありましたので、入院させました。尿培養の結果は大腸菌でした。入院後抗生剤の使用で3日目には下熱し、CRPも陰性化しましたので、入院8日目に退院しました。超音波検査では異常は認めませんでした。外来での膀胱造影検査で左側に II 度(0~V度まで分類されています)の膀胱尿管逆流を認めましたので、内服の抗生物質を1日1回予防的に投与して、6カ月後に2回目の膀胱造影を実施しましたところ、0度と正常となっていましたので、抗生物質は中止しました。その後も再燃は認めていません。
 赤ちゃんの発熱の原因に尿路感染症があることを覚えておいてください。

紫斑病性腎炎

〈Vol. 14〉 紫斑病性腎炎
 激しい腹痛と下肢に出血斑を認める血管性紫斑病後におきる、紫斑病性腎炎について述べます。

 激しい腹痛をきたす子どもの病気は、たくさんあります。激しい腹痛ということで急性虫垂炎(いわゆる盲腸炎)を疑って、外科を受診しないでください。子どもの病気はまず、小児科医に診てもらってください。小児科医が診察して外科的疾患が疑われましたら、小児科医は外科医に紹介します。この順番が逆ですと、血管性紫斑病による激しい腹痛をみのがして、よく急性虫垂炎として緊急手術となることがあります。
 この血管性紫斑病はよく診察すると下肢に特有な紫斑が多数みられます。また、関節痛も認めることもあります。この疾患は開腹手術をしますと、悪化します。腹痛、下肢の紫斑、関節痛の症状がプレドニゾロンなどの副腎皮質ホルモン剤で良くなったあとに、血尿あるいは蛋白尿が出現してきます。これが紫斑病性腎炎です。血尿だけのものは無治療で、血尿は消失することが多いです。蛋白尿が高度のものは、むくんでくるネフローゼ症候群となることがあります。予後の悪いものは高血圧と血尿・蛋白尿が高度の例です。
 そういった例では、腎生検をします。腎生検の組織像はほとんど正常のものから、半月体形成がたくさんあるものまで様々です。半月体形成が75%以上ある例ではどんな治療にも反応せず、腎不全となってしまいます。免疫抗体染色ではIgAが強く染まってきますので、vol・7で述べましたIgA腎症と病理学的には見分けはつきません。
 8歳の男の子です。激しい腹痛で夜間救急外来を受診しました。小児科医が診察したところ、下肢に紫斑がありましたので、小児科に入院させて、保存的治療をしました。入院時の検尿は異常ありませんでした。血液検査では、凝固系のXIII因子が著明に低下していました。腹痛は入院3日後には消失し、下肢の紫斑も入院8日目には消失しました。しかし、入院10日目に血尿・蛋白尿が出現してきました。一時退院して経過をみていましたが、血尿・蛋白尿が4カ月以上続くため、腎生検をしました。幸い半月体形成はなく、一部の糸球体の増殖だけでした。1年後には血尿・蛋白尿はごく軽度になり、経過観察中です。
 激しい腹痛のある子どもの診察はまず、小児科医に診てもらってください。長ズボンをはいている季節では下肢の紫斑を見落とされがちですので、保護者も注意して、下肢に普段みかけない赤紫色の紫斑があるかどうか注意してください。紫斑病性腎炎になったら、小児腎専門医に診てもらってください。

〈Vol. 15〉

〈Vol. 15〉
  腎臓病で恐いのは、腎臓の働きが低下し、ついには駄目になってしまうことです。急速に悪化する急性腎不全と、徐々に悪化する慢性腎不全があります。今回は、急性のものについて述べます。

 急速に腎臓の働きが悪くなるときには、尿の出が悪くなること、むくみ、体重の増加、顔色が悪いこと、尿が赤くなることなどから気づかれて、医療機関を受診します。この病気は一刻をあらそうものですから、上記の症状に気づいたら、夜でもすぐに医療機関を受診してください。
 血液検査で腎臓の働き具合をみる、尿素窒素、クレアチニンを測定すると、異常高値を示しています。冬に流行する吐いて、下痢をする冬期下痢症でも、乳児・幼児では急速な脱水で尿素窒素、クレアチニンが上昇しますが、尿には蛋白・血尿はなく、点滴で水分を補給してあげれば、大丈夫です。
 本当に腎臓がやられて、急速に腎機能が悪化してくる病気に、急速進行性糸球体腎炎という病気があります。これは血尿・蛋白尿があり、採血でも時間の経過につれて、どんどん尿素窒素、クレアチニンは上昇し、貧血も伴ってきます。特効薬はメチルプレドニゾロンの大量投与です。早期に診断して、この治療をすれば人工透析に至らずに治ります。
 10歳の男の子です。尿が赤いことに気づかれ、近医を受診しました。検尿で血尿と蛋白尿があり、血液の尿素窒素とクレアチニンが軽度上昇していました。直ちに入院し、2日後の血液検査でさらに尿素窒素とクレアチニンが上昇しましたので、小児腎専門医がいる獨協医科大学へ転院してきました。
 急速進行性糸球体腎炎と診断して、直ちにメチルプレドニゾロンの大量投与しましたが、時期が遅かったため腎臓の機能は改善せず、血液透析を5日間実施しました。血液透析によって腎臓の悪化はくい止められ、改善し、良くなりました。腎生検で急速進行性糸球体腎炎の特徴である半月体を確認しました。その後の経過は順調で、2回目の腎生検で、半月体の消失を確認しました。今はもう医療機関にかかっていません。
 顔のむくみ、尿の出が悪くなったとき、尿が赤いことに気づきましたら、直ちに医療機関を受診して、腎臓の機能が悪くなっているかどうか検査してもらいましょう。

子どものうつ病

〈Vol. 11〉 子どものうつ病
 うつ病は小児科領域では珍しいですが、うつ状態(抑うつ気分、疲労感、興味の喪失)は中学生以後(男女比はやや女子が多い)にみられます。

 はっきりとしたうつ病は小児例では珍しいですが、思春期以後になると人間関係が複雑化し、思春期の特有の心の危機が現れ、受験、失恋、第二次性徴の悩みなどが誘因となってうつ状態となりやすいです。その診断としてICD―10で抑うつ状態を診たり、27項目のCDIによって点数化して、診断します。当然器質的疾患(脳腫瘍、内分泌疾患、薬物、膠原病など)は除外しておきます。
 ICD―10は抑うつ気分、興味と喜びの喪失、易疲労感の3項目中2項目以上、集中力の減退、自信の低下、罪責感、将来への悲観的見方、自殺の観念、睡眠障害、食欲不振の7項目中2項目以上を2週間以上に亘るとき、うつ状態と判断されます。
 思春期では病初期に抑うつ気分が一時的に現れることがありますので、保護者や教師は「何となく元気がない」、「やる気がない」、「疲れやすい」、「眠れない」などの症状がみいだされましたら、注意深く観察する必要があります。
 その治療としては、その原因が家族の不仲、友人関係の悩み、学業不振などであれば、家族と学校関係者などがじっくりと話し合って解決していく必要があります。カウンセリングも効果があります。薬物療法としては子どもの場合重症なうつ病は少ないので、最近認可された副作用の少ない選択的セロトニン再取り込み阻害薬が効果があります。そのほかに抗不安薬、睡眠薬、精神安定剤も効果があります。
 中学2年生の女子です。夏休みごろより気分が何となく落ち込み、今まで興味のあったバレー部の練習にも参加しなくなり、疲労感を訴え、また勉強に集中できなくなり、夜は眠れず、食欲もなくなってきました。2学期になっても学校へ行く気がしないで、不登校となり、私の外来を受診しました。
 学校でも家庭でも、特に明らかな原因となるものはみつかりませんでした。検査でも異常はみつかりませんでした。しばらく学校は休み、睡眠薬と選択的セロトニン再取り込み阻害薬を投与しましたところ、投与2週間過ぎてから、学校へ行くようになり、食欲も回復し、疲労感も消え、活気が戻りました。
 うつ状態、うつ病は再燃しやすいものですから、一時的に良くなっても周囲のさりげないサポートが必要です。けして励ましたり、強制的なことはさせないでください。

不登校

〈Vol. 12〉 不登校
 不登校について追加します。都内の私立中学校から転校し、栃木県の公立の中学校に転校しましたが、校風やグループに入れてもらえず不登校となりました。

 私立小中学校と公立の小中学校では、雰囲気が違います。私立では受験本位の学校もありますが、都内では創立者の考えで、公立ではできない、自由なのびのびとした校風があるところがあります。私の息子たちもカナダの自由なのびのびとした教育のもとで2年間育ったので、日本の公立の教育ではその素質を伸ばしてあげられませんでした。私の転勤で東京から栃木に移り、中学校は二人とも私立中学校へ通わせ、そのため自転車で通学可能の現在の家へ引っ越しました。二人とも中学生生活はエンジョイし、今は二人とも大学生活を親元から離れて、同じ大学でエンジョイしています。
 転校は思春期の子にとっては辛い試練です。私も中学校時代に転校し、その悩みを味わいましたが、そのころはまだすしづめ教室で、いじめやグループ化がほとんどありませんでしたので、救われました。
 中学校1年生の男の子です。1月に東京の自由教育で有名な私立中学校から、栃木の公立中学校に転校してきました。小学校も同じところでした。転校前から親も子どもも公立中学校へ行くことに不安を抱いていましたが、通学できる範囲に私立中学校はなかったので、教育委員会に母親の母校であり、またいとこが通う学区外である公立中学校を希望しましたが認められませんでした。案の定というか、学区内の中学校では既にグループ化しており、彼がどこかのグループに所属させるようにとは担任はしませんでした。彼は孤独と不安に陥り、翌々日からは学校へ行けなくなりました。担任はそのような事態になっても何の対策も講じようとしないため、親は学校に不信感を抱くようになり、私の外来を開業医からの紹介で、受診しました。私は早速、教育委員会に事情を話して、学区外の母親の母校に転校させてくれるように依頼して、許可を得ました。転校により、うまくいけばよいのですが、それで駄目な時には、県内の私立中学校まで母親が車で送り迎えするか、全寮制の私立中学校へ転校も考えられます。
 現在日本は長い不況時代で、多くの親がリストラされています。それとともに子どもたちの転校も多くなっています。特に思春期時代の転校は、親友と別れる辛さは大人が想像する以上に子どもにとって大きなストレスです。学校はいろいろとスクールカウンセラーなど導入していますが、まだまだです。

過換気症候群

〈Vol. 13〉 過換気症候群
 心のストレスによって発作的に過呼吸が持続することにより、呼吸困難感、意識障害、動悸などを起こす過換気症候群について述べます。

 過換気症候群は小学校高学年から中学生の女児に多い疾患です。一過性の心因反応や、不安、パニック症候群、あるいはヒステリーの一症状として発現してきます。その原因を究明して根本的な治療をする必要がありますが、一時的な対処法としては、過呼吸発作が起きたら、紙袋を口にあて、呼気に含まれる炭酸ガスを再呼吸させることによって、血中の炭酸ガス濃度の低下を防止する方法が有効であります。また子どもは不安状態でパニックに陥っていますので、周囲の者(学校では養護教論、担任、自宅では保護者)が子どもに紙袋法で楽になるから心配ないと、不安をとり除く努力をしましょう。発作は一過性で病院へ連れて行く必要はありませんが、初めてのときは驚いて、よく救急車で来院されることがあります。そのときに医者からその対処法を教わっておきましょう。
 過換気症候群の症状は心のストレスによって発作的に過呼吸が持続することにより、呼吸性アルカローシスになります。その結果、意識レベルが低下し、筋肉のけいれんやしびれ感を訴えます。また呼吸困難感がさらに不安や恐怖を助長し、症状を悪化させます。その症状は周囲に重症感を与えます。診断には、器質的な中枢神経疾患、薬物中毒、低カルシウム血症によるテタニー、心疾患、低血糖発作等の鑑別をしておく必要があります。
 13歳の中学校1年生の女の子です。夏の運動部の過激な練習中に急に過呼吸、心悸亢進、四肢のしびれ、胸がしめつけられる感じが初めてありました。2学期になってから、授業中に急に過呼吸、しびれが2回起きたため、近医受診しましたが、不安からきている過換気症候群と診断され、うつ病の薬を処方されました。そのときに紙袋法を教わりました。服用後も学校でのみ過換気症候群は出現していました。給食中に意識を失う過呼吸がありましたので、私の外来を救急車で受診しました。来院時には意識は回復し、血液と尿の検査、脳波、脳のCTでも異常がありませんでした。近医で処方されていた薬は中止し、抗不安薬を処方しましたところ、良くなりました。
 過換気症候群は珍しい病気ではなく、最近増加傾向にあります。これは学校でストレスになるようなことが多くあるからでしょう。養護教論はその対処の仕方を知っています。その原因を明らかにして、それに適した治療を行いましょう。

燃え尽き症候群

〈Vol. 14〉 燃え尽き症候群
 今まで活発に勉強に、スポーツに情熱を燃やし、トップを走ってきた子どもが突然何もする気もなくなってしまう燃え尽き症候群について述べます。

 これは子どもの性格が律義、従順、勤勉すぎることが多いです。親の期待に応じて、がむしゃらに勉強にスポーツに頑張ってきて、その成績もトップクラスを維持してきた子が、ついには精神的にも肉体的にも限界を越えてしまい、突然燃え尽きてしまいます。突然何もする気がなくなり、朝も起きられなくなってしまい、不登校となることが多いです。時には頭痛、腹痛、脱力感、肩こり、嘔気などの身体症状を伴うこともあります。親は本人が楽しそうに情熱的に勉強やスポーツに没頭しており、親が無理矢理に強制していた訳ではありませんから、はじめその状況を理解することがなかなかできません。とにかく燃え尽きてしまったのですから、次のエネルギーがたまってくるまで、休養させることが大切です。体を休める(学校へ行かない)だけでなく、心の休養(ボーッとテレビやビデオやマンガを見る)も必要です。家族はそのことを理解してあげなければなりません。決してうつ病と同様に「今までやってこれたのだから元気を出して頑張りなさい」などと励ますことは逆効果です。休養、カウンセリング、薬物療法(睡眠薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などを組み合わせて時間をかけて治療にあたります。エネルギーはたまってきます。
 13歳の男児です。一人子で、両親は離婚して母親と一緒です。患児は母親に心配かけまいと本当は母親に甘えたいのにガマンして、学習塾、そろばん塾、剣道、サッカーに情熱を燃やしていました。学校の成績も良く、運動もレギュラーでした。中学生になって、学校を休みがちになり、人生に疲れ、生きている喜びがなくなってしまいました。朝は起きられず、だるくて、生きているのが面倒と思うようになりました。そういう状態で母親につれられて私の外来を受診しました。学校はしばらく休ませ、不眠状態でしたので睡眠薬を処方しました。また母親にはできるだけ仕事の量を減らして、患児と一緒にいてあげるように指導しました。精神安定剤で少し元気になり、不登校児用の学級へ少しずつ通いだしました。また離婚した父親にも会わせて、安らぎを与えました。選択的セロトニン再取り込み剤も使用しましたが、効果を認めました。
 燃え尽き症候群はトップランナーが突然走れなくなってしまう状態で、周囲は暖かく、気長に回復を待っていてあげてください。

子どもの虐待

〈Vol. 15〉 子どもの虐待
 最近マスコミをにぎわせている問題として、子どもに対する虐待があります。この虐待は大きく分けて4つに分けられています。

 小児への虐待は身体的虐待、小児無視(ネグレクト)、性的虐待、心理的虐待の4つに大きく分けられていますが、日本では身体的虐待以外は見過ごされることが多いです。身体的虐待は、外傷の残る暴行あるいは生命に危険のある暴行を、親または親に代わる養育者によって、反復・継続的に、単なるしつけ・体罰の程度を越えて行われるものであります。その死亡率は、5~27%に及びます。虐待する親もかつては、自分が虐待を受けた経験を持つ人が多いです。被虐待児は身体的には低身長、極度のやせ、多発性骨折(新旧の入り交じった骨折)、多数の皮下出血・打撲傷、不自然な火傷(たばこの跡、アイロンの跡)、不潔な皮膚、円形脱毛症などがみられます。神経学的発達では、頭部の外傷の結果として、知的発育・言語発達・運動機能発達の遅れを示します。
 ネグレクトとは親が精神的に疲弊(へい)し、親としての能力がかなり低下して、わが子への関心がむけられていない状態です。子どもは親に完全に見捨てられた状態です。性的虐待は、日本では隠されて表面にでてこない風土があります。心理的虐待は表面上は子どもは傷害を受けていませんが、親から「馬鹿、死ね、おまえなんか生まれてこなければよかった」などの言葉による暴行であり心理的な傷を子どもは負います。
 3歳の男の子です。けいれんを主訴として、救急外来を受診しました。体重は10kgしかなく、背も低く、上肢にタバコを押しつけられた火傷痕があります。すぐに脳のCTをとったところ、頭蓋内出血の所見を呈していました。母親はウロウロして、こちらの質問にもうわの空で、話す内容が支離滅裂です。全身の骨のレントゲンを撮ったところ、上肢や助骨に骨折所見を認めました。ただちに入院させ、親とは分離させて治療をしました。被虐待児と診断し、児童相談所へ連絡しました。親はけいれんが止まった時点で退院させようとしましたが、以前に親に虐待を絶対させないことを約束して退院させて、不幸な結果を体験しましたので、児童相談所と相談して、退院後は乳児院にひきとってもらいました。
 虐待のあることが明瞭なときは、早い段階でみつけてあげることが大切です。医療者だけでなく、地域の人々、児童相談所、警察とも協力して、子どももその親も支援して行く必要があります。近所の人は見て見ぬふりをしないで、哀れな子を助けてください。

ネグレクト

〈Vol. 16〉 ネグレクト
 前回に引き続いて虐待について述べます。虐待のうち少しわかりにくいネグレクトの話です。周囲の人が気がついて、保健婦さんや医者に連絡してください。

 ネグレクトは前回述べましたように親が精神的に疲弊(へい)し、親としての能力がかなり低下して、わが子への関心が向けられなくなっている状態です。子どもは親から放置され、栄養不良の状態となって、発見されることが多いです。
 生後6カ月の女の子です。父親は19歳、母親は17歳です。二人目の子です。1歳6カ月の姉がいますが、母親に育児能力がありませんでしたので、母親の実家の母親が育児をしており、順調の発育をしています。本児の妊娠中も定期健診はほとんどしておらず、生まれる直前になってようやく病院に入院して、出産しました。本児の出生時体重は予想より良く、標準体重でありました。しかし、出生しても出生届けを出さず、親としてやるべきことをやりません。父親は調理師ですが、一定の所に勤めることができず、転々としています。子どもを育てる意欲はありません。また父親の母親は同居していますが、夜に仕事をしており、孫の面倒をみる気はありません。母親の実家の母親は心配していますが、最初の孫の面倒だけで手いっぱいの状態で、最初のうちは本児を引き取ることができないとのことでした。
 家の中は清掃もしておらず、乱雑状態です。本児が着ているものも汚れていました。出生時、標準体重であったものが、ミルクを十分に与えず、体重の増加は良くありませんでした。4カ月検診で、2カ月相当の体重しかないので、入院させました。入院後ミルクを十分に与えたところ、1カ月で1kg以上の体重増加を示しました。入院中両親は、両親としての自覚がなく、一度も面会に来ませんでした。このまま、退院させれば、また体重は減少し、子どもの精神発達にもよくありません。児童相談所が間に入り、何度となく話し合った結果、長女と同様に母方の祖母へ預けることになりました。
 このような親としての自覚もなく、避妊の仕方も知らずに、中学生・高校生が妊娠し、出産しています。多くは人口中絶していますが、妊娠していることすら本人も周囲も気づかずに、手遅れとなって出産してしまいます。このような状況で出産した家庭環境はここで述べたケースと同様に家庭とは言えない状況です。
 いま栃木県では若者に対する性教育を積極的に行っていますが、まだまだです。一番の基本は、家庭があるべき姿の家庭であることです。性教育だけでは限界です。

神経性食欲不振症

〈Vol. 17〉 神経性食欲不振症
 神経性食欲不振症はこどもの心と病気のVol・7で述べましたが、別の子について今回は述べます。問題を解決する鍵を持っている人は今回はおばあちゃんです。普通は母親です。

 神経性食欲不振症は中学生・高校生の女の子に起きやすい病気です。主として母親との葛藤が原因で起きます。発症年齢が早いほど、複雑な家庭環境があり、簡単には治りません。今回の子も小学校5年生の春に発症し、中学校2年生になりました現在もまだ体重は元に戻っていません。
 今回の子は、三人姉妹のまん中です。父親は会社員で、母親は中学校の先生です。おじいちゃんは心筋梗塞を起こして、療養中で元気がありません。おばあちゃんは一人元気で、両親が働いていますので、家事・育児を一手に引き受けています。三人とも頭が良く、素直な子ですが、おばあちゃんは姉と妹には優しくしていますが、なぜかこの子とは相性があわないのか冷たい態度で接していました。本人はそのため母親に甘えたかったのですが、母親が忙しいため、十分にだれにも甘えられずにいました。表面的にはおとなしい、手のかからない良い子でしたが、内面は負けず嫌いな、甘えっ子でした。
 小学校5年生の春の運動会の練習中に頑張りすぎて、疲れ切ってしまいました。練習でもだれにも負けたくなかったのです。その練習の疲れがきっかけとなって、食事がとれなくなり、急速に体重は減少しました。
 近くの大きな病院に入院しましたが、主治医とおばあちゃんとがうまくいかず、自主退院してしまいました。そこで、私の所に来院しました。入院させ、食事は自分では一口も食べないため、一口ずつ赤ちゃんのように食べさせました。夕食は母親に来てもらい同様のことをしてもらいました。方針として母親への甘えが十分でなかったと解釈して、母親に好きなだけ甘えさせました。この方法で良くなり、退院しましたが、自宅ではおばあちゃんと衝突して、また食べられなくなってしまいました。本当はおばあちゃんに接し方を変更してもらいたかったのですが、うまくいかず、再入院となりました。今度は自分で食べて体重が増えたら、外泊してよいという条件づけで治療し、再び自分で食べられるようになりましたが、ある体重になると食べるのを拒否するくり返しで、今に至っています。
 この例のように家庭が健全な機能をしていないと、いろいろな心の病気が発症してきます。やはり家庭の中心は、どんなに忙しくても両親がその役割を担うのが一番です。

夜尿症

〈Vol. 18〉 夜尿症
 夜尿症に対して従来から使用されてきましたが、実際は保険適応が認められていませんでした薬剤が、平成15年6月より保険適応が許可されましたので、その薬剤について述べます。

 その薬剤は点鼻薬で、尿の産生を抑える薬剤です。寝る前に点鼻して、夜の尿量を低下させることによって、夜尿症を治す薬剤です。ですから、夜尿症の中でも夜間の尿量がその子の膀胱容量よりも多い子に、劇的に効果があります。
 この薬剤は本来、尿の産生を抑えるホルモン(下垂体後葉から分泌されるホルモン)の分泌不良となっています中枢性尿崩症として開発され、保険適応がこの診断名のみで許可されていました薬剤です。
 点鼻薬のため、上気道炎やスギ花粉症などで鼻汁がたくさん出ている子どもには、鼻粘膜からの吸収が不良のため、あまり効果を期待できません。そのため、外国ではこのホルモン剤の飲み薬が開発されて、利用されていますが、残念ながら日本ではまだ手に入りません。
 この度、夜尿症の保険適応の許可が、平成15年6月24日におりましたのは、従来のものと1回の使用量が異なります。従来のものは、1噴霧2・5mgでしたが、今回夜尿症として許可されましたものは、1噴霧10mgです。通常の使用量は1噴霧ですが、最高2噴霧まで認められています。1噴霧の量が4倍に増えましたので、くれぐれも間違えないで使用してください。
 寝る前に水分を大量に飲んで、誤って従来の使用回数を使用してしまいますと、この薬剤の副作用が出現してきます。すなわち水中毒です。水中毒を起こすと、低ナトリウム血症となりまして、けいれん・脳浮腫をきたしますので、くれぐれも注意して使用してください。
 夜尿症はこの欄で何度も取り上げてきました。もう一度前の夜尿症の項目を読んでください。要約します。
 小学生になっても毎晩夜尿をしているようならば、夜尿症の専門医を受診して、治療してください。夜尿症の原因はいろいろあります。今回述べました抗利尿ホルモン剤の点鼻薬が効果がある場合もあります。しかし別の原因、例えば膀胱容量が小さい場合、ストレスによる二次的な原因による場合には、別の薬剤と対処法があります。どのタイプの夜尿症であるかを適切に診断してもらって、治療してもらってください。排尿を少しガマンすること、夕食後の水分を控えるだけで夜尿症が治ることもあります。いろいろな薬に反応しない子もいます。あせらず、怒らず、しからずの原則で保護者は対応してください。

中学生の凶悪犯罪

〈Vol. 19〉 中学生の凶悪犯罪
 中学生による凶悪犯罪が、マスコミを騒がせています。このような問題行動をおこした子どもたちは、家族生活に問題があることが多いです。

 問題行動をおこした子どもの家庭環境を調査すると、いろいろと考えさせられます。子ども自身にもある障害を持っていることがありますが、それは保護者の対応によって未然に防ぐことができることが多いです。
 少子化によって一人子が増加し、兄弟げんかの経験もなく、親の過剰な期待を重荷と思っている子どもが多くなりました。父親の存在が希薄となり、なんでも子どもの要求を受けいれてあげるものわかりの良いパパが増えました。一方、母親は父親がしっかりしていないので、厳しすぎる人が増えました。デフレ経済で、失業率も高く、リストラされる父親も多くなり、父親は自分自身に自信をなくしています。そのような父親ではこどものしつけ、教育をすることはできません。
 家庭での親子関係は、特に乳幼児期の育て方でその子の性格は決まってくる傾向にあります。親の前で安らげない子どもが増えていますが、それは乳幼児期にみたされない生活を送った結果です。厳しいしつけは自律心を妨げます。愛情をもって子どもに愛情が伝わる中で、きちんとしたしつけをして、その結果を性急に求めずじっくりと待ってあげることが大切です。
 子どもを思いどおりにしようとする親がいますが、子どもに満点を期待せずに平均点の60点でよいと思うようになれば、親にも心の余裕が持てるようになり、自然とそのことは子どもにも伝わり、やすらぎのある、笑いのたえない家庭となります。
 12歳の女の子です。2人兄弟の姉です。下の子は、慢性の重篤な疾患を持っています。そのため、両親の関心はいつも下の子に向けられていました。その子は12歳になるまで、親に反抗したこともなく、まったく手もかからず、成績も良い両親にとって自慢の子でした。
 ある時突然腹痛が出現し、親に訴えましたが相手にされませんでした。そのことが引き金となって、その子は家庭内暴力を起こし、学校へも行かなくなりました。両親は理由がわからず、私の所へ相談に来院しました。その子とじっくりと話し合った結果、彼女は本当は両親に甘えたかったし、反抗したい時もあったが、じっとがまんして良い子を演じ続けてきて、それに耐えきれなくなってしまったとのことでした。両親に彼女にも愛情を注ぐように忠告し、カウンセリングと薬物療法で改善してきています。

不登校

〈Vol. 20〉 不登校
 不登校について再度追加します。家庭内の両親の不和によって、仲裁役の中学生の男の子は心配で不登校となってしまいました。

 不登校については、平成12年9月から8回、平成14年7月にこどもの心と病気シリーズで1回、合計9回述べましたが、新たな形の不登校児を最近経験しましたので、また追加します。
 14歳の男の子です。父親は暴君で難治性の病気をもっている母親に、暴力と口汚い言葉をあびせ、生活費も与えてくれません。弟が2人いますが、父親は弟ばかりかわいがり、この子には辛く当たります。それは彼が母親の唯一の味方であり、母親をかばうからです。家の中は暗く、家庭の温かさがありません。彼が中学校へ行っているときに、父親が母親に暴力をふるうのではないかという心配で、ついには学校へ行けなくなりました。さらに、味方をしていた母親に対しても、衝突するようになりました。それは思春期の男の子が母親を支える限界に達してしまったからです。普通はいろいろな悩みを母親に聞いてもらい、まだ甘えていたい年頃なのです。そのイライラを爆発させ、弟たちとも衝突するようになりました。まったく勉強に身が入らなくなり、こまった母親が彼を連れて私の外来を受診しました。母親の話だけを聞くと惨憺(さんたん)たる家庭で、母親は離婚歴がありました。難病をもちながら、生活費を父親がくれないため、パートの仕事をしながら、生活費にあてていました。話を聞けば、離婚するよりほかに手がないように思われました。彼には精神的な病気はなく、このような家庭では誰でもが起きうる心因性反応でしたので、少しでもイライラを取り除く精神安定剤を処方しました。
 その後母親は故郷の長野県へ数週間逃亡しました。次に来院したときには母親も彼も明るくなっていました。その理由は、父親がようやく母親の難病について理解してくれ、生活費も与えてくれるようになり、家庭に明るさが戻ってきたからです。それとともに彼も学校へ行くようになり、勉強する意欲もでてきました。この夏にはアメリカにホームステイしたいというほどに積極的になりました。弟たちとの衝突もなくなりました。
 離婚しか解決策はないと思っていましたが、劇的に夫婦が和解して、本来の家庭の姿に戻ってくれました。この関係が継続することを祈るのみです。離婚はできれば避けたいことですが、仮面家族で生活していくくらいなら、離婚する方が良いでしょう。夫婦・家庭内のことまで医療者が踏み込むことは困難です。家庭の団らんが子どもの成長には一番大切です。

子どもの虐待事件

〈Vol. 21〉 子どもの虐待事件
 子どもの虐待事件が増えています。大阪では中学生の兄弟に虐待が加えられ、兄は意識不明のままです。学校や児童相談所の対応にも問題があります。

 子どもへの虐待は明らかな暴力行為があればはっきりしますが、食事を与えないなどのネグレクト(無視)は、見逃されやすいものです。大阪の事件では、兄弟に虐待が加えられ、弟は実母の所へ逃げて、保護されましたが、弟よりひどい仕打ちを受けていた兄は逃げる気力もなく、意識不明となって、3カ月たっています。学校や児童相談所も心配して家へは行っているようですが、会わせてもらえないといって、引きさがって帰ってしまっています。
 これは明らかな怠慢であります。虐待している親が子どもに会わせてくださいと言って、会わせるはずがありません。強権を発動しても、保護すべきだったのです。
 同様なことが栃木県でもみられます。確かに児童相談所は人手が少なく、忙しいでしょうが、やるべきことはやってもらわないと困ります。人手が足りないなら、もっと行政に働きかけて、人手を確保してもらいたいものだと思います。
 また、行政ももっと児童福祉に関心をもち、予算をつけてください。医者が虐待があり、退院させると危険であると思っても、親が強く退院を希望すれば、退院させざるをえません。あとは児童相談所の人にバトンタッチです。面会に行って、会うのを拒否されたり、居留守をつかわれて、帰ってくるようでは困ります。そういうことこそ、危険な徴候なのです。児童相談所員は立ち入り調査(家庭に直接立ち入り、子どもの様子を確認。親が抵抗すれば警官の助けを要請し、子どもの命が危ないと判断すれば一時保護)を実施してください。面会に応じてくれる親なら、多少の虐待があっても、周囲の援助で親の虐待はなくなっていきます。面会を拒否することこそが問題なのです。
 児童相談所だけでなく、近所の人や学校・幼稚園・保育園の先生も面倒なことに巻き込まれるのはいやだと思わず、虐待らしき徴候があるときにはもっと勇気を持って、子どもを助けてあげてください。
 日本ではまだまだ親権が強く、どこまでがしつけで、どこまでが虐待の区別もつきにくいことがありますので、児童相談所も含めて親に対して腰がひける傾向があります。そういうときには、小児科医に相談してみてください。
 小児科医は、だれでも子どもを助けたいと思っている人たちですから、虐待かどうかは判断つきます。

病気の子の親の心

〈Vol. 22〉 病気の子の親の心
 命に危険があるような重篤な病気をもった子どもの親の心のケアを十分にしないと、虐待や両親の離婚が生じ、家庭は崩壊します。回りの人が支えてあげる必要があります。

 命に危険があるような重篤な疾患としましては、重篤な心臓病を合併した染色体異常、白血病や悪性の固型腫瘍、生まれつきの免疫不全などがあります。最近は医学が進歩しましたので、生命予後は良くなりました。しかし、そのような子どもを抱えた親の心の負担は大変です。まず、子どもがそうなったのは自分のせいではないかと自分を責めます。
 次に、子を救えるのは自分の愛情だけではないかと、すべてに優先してその子の世話をします。そうなったとき、周囲の人(夫、祖父母、近所の人、医療ケースワーカー、児童相談所の人、医療チームの人)が支えてあげないと、ほかの子どもや夫婦の危機がきます。夫婦が一番支え合っていかなければいけないのに、そのような子どもを持った何組かの夫婦が離婚してしまったのを知っています。また、母親が現状に耐えきれなくなって、養育を放棄(虐待の一種のネグレクト)してしまうことすらあります。一概に母親を責める訳にはいきません。日本ではそのような家庭への支援体制が遅れています。20年前に留学したカナダでは支援体制がしっかりしていました。
 3歳の女の子です。血液の不治の病気にかかってしまいました。母親は遠方から毎日面会にきていました。しかし、周囲の支援体制がうまくいかず、母親は看護に疲れてしまいました。この病気の子ども以外にも、精神的に異常行動をおこす子どももいて、パニックに陥ってしまいました。突然、面会にもこなくなり、たまに病院にきても子どもに会おうとしなくなりました。主治医は、医療ケースワーカーや児童相談所の人にも実状を話して、母親の支援体制を作ろうと努力しましたが、母親の頑なな心は開かれず、子どもは周囲の大人におびえるようになってしまいました。病気も悪化し、最悪の状態となってしまいました。そのようなとき、親戚の人が手をさしのべて、何とか最悪の状態は切り抜けることができました。
 日本では子どもが病気になったとき、両親だけに負担がくるようになっています。もっと地域社会の人や医療チームの人が親の心のケア、経済的支援体制をバックアップしていかなければなりません。

〈年末年始のこどもの急性疾患の対処法〉

〈年末年始のこどもの急性疾患の対処法〉
● 年末は多くの小児科の開業医はぎりぎりまでやっていますので、開業医にかかりましょう。
● 冬はインフルエンザ、嘔吐・下痢が流行しています。年末にかかったときは、薬は多めにもらっておきましょう。
● 笑顔が子どもの顔から消えた時は要注意です。いつもと様子が違うという親の判断は正しいことが多いので、子どもをよく観察しておきましょう。
 大学病院の救急外来は混みますから、待ち時間が長くかかり、別の病気をうつされる可能性がありますので、できるだけ休日診療所、夜間診療所にかかって、そこで手におえないと判断された時に、大学病院を紹介してもらうのが良い方法です。
 インフルエンザはまだ大流行はしていません。この年末・年始は多分大丈夫だと思います。予防注射も足りなくなってきていますが、近くの医者にまだあれば、受けておかれるのがよいでしょう。多分流行は1月末ぐらいからだと思います。手洗い、うがい(緑茶か紅茶がよい)、マスクの励行をすることをおすすめします。まだインフルエンザの時に、使用してはいけない下熱剤を処方する医者がいます。そういうことのない小児科医で、診てもらうようにしてください。
 熱性けいれんを持っている人は、予備の抗けいれん剤の坐薬を確保しておいてください。なければ年内にもらっておいてください。
 嘔吐・下痢が流行しています。大体半日か1日で治ります。赤ちゃんや幼児では脱水をきたしやすいので、医者にかかった方がよいでしょう。吐くからといって、水分を与えないのはよくありません。少量の電解質の入った水分をこまめに与えましょう。それで、飲んでくれて笑顔がみられていれば、医者にかからなくても大丈夫です。下痢の時に注意してもらいたいのは、血便があるかどうかです。血便があると、いくつか恐い病気がありますので、必ず医者にかかってください。
 突然熱がでても、元気がよく、笑顔がみられていれば、すぐに医者にかかる必要はありません。熱さましシートや氷まくらや、腋窪を冷やして様子をみましょう。高熱だけで、頭がおかしくなることはありません。
 はじめてひきつけをおこされたときは驚かれると思います。熱の有無、ひきつけの時間だけはチェックしておきましょう。熱がないひきつけ、ひきつけ時間が10分以上(20分以上は入院)、何回もひきつける時は、直ちに医者にかかりましょう。
 年末・年始忙しくて子どもへの注意がおろそかになると、溺水、大人の薬の服用、酒を飲んだりしますので、余裕のある生活を心がけて、子どもの行動に注意してください。

初めての妊娠

1 ● 初めての妊娠
~ 8週目・初めての妊娠 ~
Q.初めての妊娠ということで、いろいろな雑誌を見て勉強していますが、だいたい「3~4カ月に流産」に注意とあります。日常の生活でどんな事を具体的に注意したらいいのかわからず不安です。例えば布団干しにしてもいいのか、買い物はどの程度の重さならいいのか。でもある雑誌には運動不足はよくないとあります。日常生活で目安みたいなものがあるならぜひ教えてください。よろしくお願いします。
(ペンネーム/のりたまちゃん)

A.妊娠3~4カ月ごろは流産に注意としていますが、現在検査診断機器(超音波断層装置)の進歩で妊娠を継続すべき状態か、流産状態になっているのかを容易に見極めが可能です。妊娠3~4カ月での流産は、子宮内で胎児が生存している状態が確認でき、産科的な病気で流産傾向にあるものと考えられます。したがって出血があるとか下腹部に強い痛みを感じるなどがあれば、産科医に見てもらうことを指すと思ってください。
 なお、流産をどのように考えるかですが、流産の多くは受精卵の染色体に異常があり、生物としての安全性からも胎児になれない運命にあるものがたどる道と考えられています。
 妊娠中の運動あるいは日常生活のあり方について、妊娠が生理現象と考えれば妊娠8カ月末ごろまでは、妊娠する前の状態を変えることはありません。
 当然ですが、母体保護の意味合いから疲れが翌日に持ち越すような運動や仕事については、それなりの注意が必要です。
 また、お腹に圧力(腹圧)がかかる状態は、直接的に妊娠子宮と胎児に影響が出ることがあり注意して避けるべきでしょう。妊娠中でも、産科的に異常がなければ適度の運動は必要で、適度の運動を行っていた妊婦のお産は軽く済むとも言われています。いわゆる健康妊婦を対象とした妊婦体操、妊婦水泳教室やマタニティビックス(妊婦のエアロビックス)などが推奨されるゆえんでもあります。
 アメリカの報告で、非妊時から続け